「のう、……穴、開けんのか」
唐突に尋ねられたそれ。
幼馴染兼恋人の瞳は耳を見る。そっと触れる指先は耳朶の感触を楽しんでおり、試しに彼を見上げて「今世はどうしようかな。……前世と同じように金色の奴にしようか」と尋ねると、ドングリ目は僅かに和らいで「別に前世ばかりに拘っちゃいない」と言葉が返ってきた。であれば、角に見立てるように同じ色合いの三角ヘアクリップを寄越したのは何故なのかと思ったが、そういえば三角ヘアクリップを贈られたのは前世を思い出すよりも、うんと昔のことだ。
当時はまだ小学生に上がったばかりで、まだまだ可愛らしいピンクや薄紫が好きだった私は、随分と渋い色身をしたものだと思ったが、今考えれば彼は前世の私に近付けようとしていたのだと思う。それが前世の私を忘れないようにか、それとも私が前世のことを思いだすようにかは分からないが、なんとも愛された話だ。
そう意識した途端、気恥ずかしさに似た感情がじんわりと心に滲む。なんだかお腹がこそばゆくなって、耳が熱くなって。それを悟られたくなくて視線を外すと、カクは不思議そうな顔で私を見下ろした。
「?何か不味い事でも言ったか」
「ううん、なんでもない。……それで、ええと、穴を開けるか開けないかだけど……カクは開けた方がいいと思う?」
「うん?」
「あれ、そういう意図じゃなかった?」
だって、彼は今もなお耳を触り続けている。愛でるように、慈しむように。親指と人差し指で挟まれた耳朶は、ふにふにと揉まれたり、すりすりと撫でられる。催促じみたそれを見るに、開けないという言葉を聞きたいわけじゃないように思えて、一度は伏せた睫毛を上げると、絡んだ視線の先で彼は少しだけ驚いたように目を丸くして、それから気恥ずかしそうに視線を逸らした。
「ああ、いや……特にそういうつもりではなかった、が、……」
「が?……ふふ、開けてもらいたくなっちゃった?」
時折見せる、彼の気恥ずかしそうな顔が好きだ。なんせ、彼は外でそういう表情を滅多に見せない。だから彼のそういう表情を見れば意地悪したくなるのも致し方ない事で、続きがありそうな言葉を拾って尋ねると、気恥ずかしそうに他所を向いた瞳は揶揄いを察したのだろう。目の前が白いもので遮られてしまった。
こつんと額と鼻に当たる堅い感触。一体何事かと思ったが、どうやらカクが何かを押し付けてきたらしい。「んぎ」なんて間抜けな声と共に、顔に押し付けられたそれを剥がし取ってみると、それは紙袋であった。それも有名なミドルブランドのロゴが箔押しで印字されており、中には長方形の箱が二つ入っている。
「……これ……貰ってもいいの?」
「誕生日じゃろ」
「そ、そうだけど、でも二つあるよ…?!」
このブランドは確か、ハイブランド寄りのミドルブランドだったように記憶している。それが二つあることを考えると一体いくらしたのだと思ったが、それを突っ込むことも野暮でしかない。けれど野暮とは分かっていても、返した言葉は随分と間抜けなもので、カクはふはっと息を吐き出すように笑うと「まぁ見たら分かる」とだけ言って、困惑する私をなだめるように、どうどうと頭を撫でた。
言われるがままに、箱を開く。
もしかしたら、手は少しだけ震えていたかもしれない。
二つの箱の中には大振りのピアスとイヤリングが入っていた。それを見てようやく彼の問いかけの意図が分かったような気がしたけれど、それよりも目の前にある形違いのピアスとイアリングが可愛いやら、嬉しいやら。色々な感情が混ざり合って上手く言葉が出てこない。それでもこの感情をどうにか伝えたくて、隣に座って手元を覗き込む彼にぎゅうと抱き着いて、ついでに長い鼻を避けるようにして下からキスをして「ありがとう!!っこれ、大事にするね」と精一杯の感謝を込めて伝えると、彼はやっぱり驚いたような顔をしたあと、幸せを噛みしめるようにはにかんで「おお、そりゃあ良かった」と呟いた。