末っ子の思い付きはいまに始まったことではないが、わざわざ暑い初夏の日に、部屋から連れ出されるとは思いもしなかった。
「カルカ、はやくはやく!」
手を引かれて速足で歩く廊下。養護施設の中はひんやりと涼んでいるだけに出歩きたくはないのだが、彼女の向かう先は玄関のある一階で、まさか庭で遊ぶのではあるまいなと思ったその予想通りに、縁側へと出たカルカはムワリとする熱気に呆然と立ち尽くした。
「こいさん、これは一体」
「あのね、今日は先生いないから、みんなで水遊びするの!」
「へぇ、そりゃあ良うござんしたが、わてがおる必要が?」
「?だって、カルカがいたらもっと楽しいでしょ」
そう言って不思議そうに、けれども当然のように話すアネッタ。
はぁ、困った。これだから彼女には手厳しく返せないのだ。カルカは言葉を詰まらせたあと溜息を吐いて縁側へと座る。それを見たアネッタはそりゃあもう上機嫌といった様子で、彼女はにこにこと笑いながら足の下に水の入った青いバケツを出すと、少量の水を掬い白い足先にかけた。
「カルカはこのバケツに足を入れて涼んでね」
氷入りだからちょっと冷たすぎるかもしれないけど。確かに足先にかけられた水はひんやりと冷たい。けれども今日のような初夏の日には、エアコンの涼しさとは違う涼しさがあり、そういえばエアコンなんてものがない前世でも、こうやって足を水に入れて涼んだことがあったなと思い出した。当時はいまよりも大人で、足をつけるのは少し面倒に思えたけれど、あの時もああやってアネッタが先導して誘ってくれたっけ。
カルカは懐かしさに双眼を細めて足先からちゃぷんと沈めると、身体の熱がスウと冷めていく感覚に息を吐いて、いつしか隣に座っていたルッチに向けて「いい日どすなぁ」と呟いた。まぁ、かえってきたのは愛想の無い乾いた笑いであったが、これもまたいつものこと。カルカはさして気にした様子も見せず、背中に水をかけられて叫ぶアネッタを見て小さく笑いを落とした。
「ぎゃあ!ちょっとぉ、カク何すんのよ!」
「わははっ!油断したお前が悪い!」
「そっちがその手を使うなら、こっちはこの水鉄砲だ!えい!」
「ぶあっ!そりゃ狡い!」