自由時間になっても、カルカの姿が見えない。誰に聞いても首を振るうばかりで、カクに聞いても行方は分からず。代わりに遊びの誘いを向けられたが、今日の気分はカルカに向いている。そのため丁重に断ったあと、一階から三階まである養護施設の中を探索するように歩いたが、不思議なことにその姿は見当たらず、一階にある食堂に戻ってきてしまった。
彼女は一体どこに行ったのだろうか。入れ違いを考えたが、一階から三階まである養護施設は入れ違うほど広いわけではない。ともすれば夜間外出という線もあるが、玄関には揃えられた靴が残っている。アネッタは名探偵宜しく腕を組む。ふむふむ、一階から三階までを見たがおらず、外出の可能性も無し。あとはお風呂かな。アネッタは探し漏れの場所を弾き出すと、風呂場へと向かい歩き出すが、そのとき食堂からではない、匂いに足を止めた。
多分、この匂いはカルカだ。それも匂いが残っているということは、つい最近此処を歩いた筈。アネッタは残る手札をしっかりと見つめた後、箱買いした物資類を収納している倉庫に向かい、扉の下から漏れている倉庫内の光に目を輝かせた。
「……カルカ……?」
とはいえ、重いものがいっぱいで倉庫内作業を好まないカルカが此処にいるだろうか。その疑問は扉を開ける際の声掛けにしっかりと反映されていたが、検知型のライトであるはずの中は外で見たように明るい。しかし、其処にいたのはカルカでもなければ職員でもない見知った人物で、アネッタは瞬きを繰り返した後、静かに尋ねた。
「どうしてルッチがいるの?」
「……」
ルッチは喋らない。それどころか此方には背を向けたままで、鼻孔を擽る匂いに、彼女は続けて尋ねた。
「そこにカルカがいるの?」
反応は無い。しかし、それが余計に怪しいとアネッタ。彼女はさながら名探偵の気持ちで犯人を追い詰めたと暫くその背中を見ていたが、突然背後の方からぐいと首根っこを引かれて、アネッタはウウと呻きながら後ずさった。
「こら、いい加減にせんか」
其処に立っていたのは、カクであった。
彼の声には呆れが滲んでいる。
「カク…だ、だってカルカが」
「はぁ?どうみてもおらんじゃろ、あれがカルカに見えるのか?」
「見えないけどぉ…」
じゃろ?ここにはルッチしかおらん。カクに言われてしまうと、妙に納得せざるを得ないのは一体なぜなのだろう。アネッタはいまいち腑に落ちないとウウンと首を傾げたが「本当?」と尋ね、カクが「本当本当」と言ったのだ。であればきっと、そうなのだろう。アネッタは「そっか」とひとり納得したように頷いてみせた。
「そんなことより、あっちでジャブラがお前に服をやるって言っておったぞ。なんだったか、ライブで買ったシャツと言っておったな」
「うっそ、本当?わ、じゃあ行ってくる」
「おお、わしも後で行く」
ぱたぱたと駆け足で遠ざかる足音。全く単純な女である。
「さて、じゃあわしも行くかな。邪魔をしたのう」
そして、この場をなんとか収めたカクの声色はどこか静かだが、残された言葉は僅かに悪戯を含んでいる。「一つ貸しじゃぞ、ルッチ、カルカ」その言葉に残された二人は息を詰まらせたが、倉庫の灯りが消えたのは、それから暫く経ったあとのことであった。