もしも彼が海賊だったなら

 海賊業をしていると、船の大きさを格に換算する阿呆を見る事が多い。ただの世間知らずであれば可愛いものだが、格下相手だと早合点して、威張り散らす馬鹿船長ほど面倒なものは無い。何故ならば、船長が馬鹿であれば、船員も軒並み馬鹿ばかり。

 男たちは制圧目的で船へと乗り込んだカクとブルーノを囲んだが、優位に立てたのも一瞬の事。武器も無く乗り込んだ船で、落ちたカトラスを拾い上げたカクは、そのまま湾曲した刃を船長の首元へと滑らせる。
 何だ、一体何が起こった。恰幅の良い大男と、細身の男。武器もなく乗り込んできた時には馬鹿な奴がいたものだと思ったのに、現状は形成逆転。今や全ての船員たちが伸されており、首元に宛てられたヒヤリと冷たいそれは、ちょっとした死刑宣告のようだと、馬鹿船長は息を飲んだ。

「……それで?おぬしらが持っておる宝は何処に?」

 目深に被った帽子の奥で、光を持たぬ瞳が静かに尋ねる。とてもじゃないが、冗談を言える状況ではない。しかしこの船にある宝は、二十年の海賊人生で得た選りすぐりだ。それをこんな若造達に渡してたまるか。

 船長は冷や汗を垂らしながら口を開く。しかし「な」と一音紡いだ瞬間、それに被せるように「無い、とは言わせんぞ?偉そうに高説垂れてきた海賊が、まさか無一文なわけあるまい」とカクが詰める。元より肯定以外の言葉なんて、求めちゃいないのだ。

 しかし、此処で予想外の出来事が起こる。
 船内を調査していた筈のブルーノが一足先に甲板へと戻ってきたのだ。

「それなら持ってきたぞ」
「ん……おぉ、ブルーノ。なんじゃ、相変わらず仕事が早いのう。」

 彼の腕には趣味の悪い装飾を施された宝箱がひとつ。船長は「ああっ」と驚き、情けない声を上げたが、その反応はこれが本物であると証明するだけ。想定通り、隣に置いて開いた宝箱の中には数十年の海賊人生で得た金品がいっぱいに入っていた。

「えらく貯め込んでおるのう、わはは……金策には丁度ええわい」

 カクはそれに視線を向けたまま、船長には一瞥も寄越さずに押しあてた刃を外側に引くと、物差しで引いたような直線が刻まれて、数秒と経たずに崩れ落ちる。ゴトと鈍い音が響いたことを機に、気を失う事も出来ず、ただ痛みを堪えて身を伏せる海賊たちは「ヒ」と息を詰まらせた。
 それから身を伏せた船長の体は椅子替わりに。カクは「どれどれ」と言いながら胸元から小さなルーペを取り出して、宝箱に収まった宝石たちを見る。ルビーにサファイア、エメラルド。どれも大振りなそれらは質の良いもので、細かなカッティングを施されたそれは、真上から落ちる太陽光を受けて七色の煌めきを放っている、

「……ほう、どれも本物で状態も、それから質も素晴らしいのう。ふむ……この船には良い目利きが乗っておったか」
「では頂いていくか」
「あぁ。これで暫くは金に困らんじゃろうな。フフ……ワシャず~っと質の良い砲弾を取り付けたいと思っておったんじゃ!」
「……それは戻ってから考えるんだな」
「それもそうか……よし、では戻るとするかのう、……ドアドアはいけるのか?」
「あぁ」

 そうして二人は、少し離れた位置にある自分たちの船へ。ブルーノは手にした宝箱を早々に運んでいたが、カクだけは一人思い出したよう船べりへと近付くと、敵船に残る船員たちに向けて声を掛けた。
「おぉい!言い忘れておったが、早く船を捨てて海に飛び込んだほうがええぞー。じきに爆発するからのォー!」

 爽やかなもの言いに反して、海賊としては死刑宣告とも言える行い。敵船の方では何やらワアワア言っていたが、小さな影が海へと落ちるなか、それらを包み込むように各所から大爆発が起きて黒煙が上がったが、海賊船が一つ海の藻屑になったとて心配する者はいない。カクはそれを見て機嫌よく笑うと、「さて、ガレーラカンパニーのカタログでも見るかのう!」と声を弾ませ踵を返した。