真島
「なんや、えらいぶすくれとるなぁ」
不細工やの~、えらい不細工になっとるで。隣に座って、不貞腐れたように頬を膨らませる少女を見る。普段からぷくぷくに思っていた頬が膨らむとなんだかフグにも見えるが、その顔が涙に濡れ始めると話は別だ。「なんや、どうしたんや」「……あのね、クラスのおとこのこが……かみをひっぱってきたの」……そういえば、朝早くに見せてきた星飾りのついた髪ゴムがなくなって、そのあたりが乱れている。「どこの坊主や」呟いた言葉は、存外低い声だった。「え?」「うちのチビを泣かせとるんや、此処から先は真島吾朗のおでましや!」その言葉にポカンと口を開いて瞬く××と、何かを察したように冴島が立ちあがる。それでも構わずに、適当にそこいらにあったバッドを手にすると、冴島は何かワアワア言っていたがグラグラと煮えたぎる音が煩すぎて聞こえず、彼の静止が聞こえたのは外に出て暫くしてのことであった。。
山井
「ガキってのはこうもあったけえのか……」
膝の上を陣取って、クッキーを頬張る少女を抱きしめる。体は小さい筈なのに、湯たんぽのように暖かい××の抱き心地は中々なもので、リスのように膨らんだ頬が咀嚼のたびにモコモコと動く。抱きしめている間も少女は動かず「おじちゃんも食べる?」と差し出されたクッキーを見て口に含めば、強いバターの香りに続いて程よい甘みが広がって、思わず乾いた笑いが落ちた。「……はは、甘えな」「そお?」「ああ、二枚目はいらねえよ」……別に、クッキーなんてものも、子供も好きではない。しかし、抱きしめた××があんまりにも温かいものだから意識は段々と微睡み落ちて、気付けば二人して抱き合ったまま眠りに落ちていた。
難波
「そうか、××ちゃんは大人になったらお医者さんになりたいのか」
目線を合わせるようにしゃがんだあと、「そうしたら、ナンちゃんもいたいいたいを治してあげるね!」と笑みを向ける××に眉尻を下げる。どうしてこうも可愛いもんか。……自分もこうやって夢に目を輝かせていた時があったっけ。目尻に皺を作って笑みを浮かべる難波は××が可愛くて仕方が無いらしい。「じゃあそのためには沢山勉強しないとな」「そうなの?」「そりゃそうだ、お医者さんってのはたくさん勉強してるんだ」言いながら、近くにあった小枝を拾い、地面に魚を一匹、二匹と描いていく。「よし、じゃあこの魚は一匹と一匹だ。それが何匹いる?」そうやって簡単すぎる勉強会が始まるが、難波は決して叱らず、焦らず。彼女が正解すれば大きく喜んで、間違えれば一緒に悩んでと彼女の勉強は続き、「ナンちゃん大好き!」なんて抱きしめられると「おれ、娘をほかの男にやりたくないって気持ちが分かったかもしれねえ……」と独り言ちるよう呟いた。
趙&ソンヒ
「××ちゃんはいつも元気だねえ」
小さなお姫様を抱えて、ショッピングモールを歩く。アイスが食べたいと強請られて小さなコーンアイスを食べさせて見たものの、口回りはべちゃべちゃだ。「あーあー、口回りが凄い事になってるよ」空いた片手で、彼女が下げる鞄からタオルを取り出して拭いてやる。それからあげると言われたアイスを一口貰ったものの、彼女の視線は手元にあった。「どうしたの、手なんか見て」「てんゆーちゃんのおツメきれいねえ」「そう?」「××もおツメきれいにしたーい」「ええ?流石に××ちゃんは早いんじゃない?」綺麗さで言えば指輪に目が行ってもよさそうなのに、彼女はアイスクリームよりも黒塗りの爪に目を奪われている。
「ツメ、ねえ」
しかし、子供の爪にネイルなんて塗ってもよいものか。答えに悩んでいると、突然「いいじゃないか、子供がネイルをしても」そんな声が背後から袖を引いて、振り返ると其処には随分と見慣れた姿があった。「ソンヒ……」「あ!ソンヒちゃんだ!」……××ちゃんって、おれよりもソンヒに懐いてるんだよなぁ。アイスクリームを買ってやったのだって、此処まで抱っこをしてやったのだっておれなのに、小さなお姫様はソンヒにお熱だ。「あのね、てんゆーちゃんみたいにおツメきれいにしたいの……あっ、ソンヒちゃんもきれーい!」「ふふ、そうか?じゃあ、一緒に買いに行くか」確か子供用ネイルはおもちゃ売り場に会った筈。ソンヒの言葉に花を咲かせるように笑みを浮かべる××と、それにつられて表情を和らげるソンヒ。その二人きりの世界がどうにも不快で、「……××ちゃんはおれとデートしてたんじゃないの」と言うと、××はよく分かっていないような顔をしていたが、また人懐っこく笑って「てんゆーちゃん、いっしょにおつめきれにしようねー。てんゆーちゃんとおなじいろにしたいの!」なんて可愛いことを言うので、おれはただ彼女をぎゅうぎゅうと抱きしめることしか出来なかった。
マスター
「もう少し子供向けのメニューも用意するべきか……」
連れてこられた少女は小学生にも達していないように見える。それがちるちると冷麺を啜るともう少しオムライスとか、カレーライスとか、お子様ランチとか、兎に角そういった子供向けのものを出してやれば良かったと後悔が募る。「お嬢ちゃん、冷麺で悪かったな」ちるちると夢中で啜っている××に向けて言う。「おいしーからいいよ!このちゅるちゅるすきー」「そうか?もっとオムライスとかがよかったんじゃないか」「おむらいす……?」「ハンバーグとか」「……?」……もしかすると、彼女はあまり良い環境にいなかったのかもしれない。そういえば、彼女の服装は煤けている。それを聞いて、何を言うでもなくオレンジジュースを出してやれば、カウンターに手をついて彼女を見つめた。「お嬢ちゃん、次はオムライスを作ってやるから腹が空いたときにまた来るといい」