帰りのHRを終えてさぁ帰ろうかというところで先生に捕まった。どうやら授業で集めたプリントとノートを数学準備室まで運んでほしいとのことらしいが、それにしたって量が多い。先生だってこのあと数学準備室に行くのなら少しくらい持ってくれたっていいのに、全部任せるんだから日直というものは本当に厄介なもので、同じく日直という理由でつかまったサボくんと手分けしてそれを持つと、私たちは横並びで数学準備室へと向かう。
「サボくんごめんねぇ、重い方を持ってもらっちゃって。」
「ん?あぁ、気にしないでくれ。女の子に重いものを持たせるわけにはいかないさ。」
私たちのクラスから数学準備室までは大した距離ではないが、重い方を持ってくれるその細やかな配慮が嬉しく、少し視線を上げてサボ君に向けてお礼を伝えると、サボくんはさも当然と言わんばかりにさらりと言葉を返すので思わず関心してしまった。
「………はー…。」
「…ん、どうした?」
「いやぁ…サボくん、なんか王子様みたいなこと言うね。少女漫画で出てきそうな1シーンだったよ。」
「はは、なんだそれ。」
重たいプリントやノートを持ったまま、サボくんが少し肩を揺らして笑う。
「多分ねぇ、さっきの1シーンで好きになっちゃう女の子いると思うなぁ。」
私も彼よりもうんと少ないノートを持ったまま、隣を歩く彼に向けて呟くと、サボくんは少し思案するような顔を見せて「〇〇さんは?」と問いかけてきたので、私は思わず目を瞬かせてしまった。サボくんってこういう冗談も言うのか。そう思いつつ、「私もきゅんときたよ」と笑うと、サボくんはふっと息を漏らすように笑って「そっか」と小さく零した。
そうして数学準備室に辿り着いた私たちは、先生が指定した机の上に置いてこれで無事任務終了となったわけだが、ふと同じように机の上に置かれたノートやプリントの山を見てみると、どれがどのクラスのものなのか分別しやすいようクラスを書いたメモが置かれていた。まぁ確かにぱっと見でどのクラスが分かった方がいいかと私は胸ポケットからボールペンを取り出したはいいものの、メモになるようなものを持ち合わせておらず、隣できっちりと四隅を合わせる几帳面らしいサボくんに「サボくん、メモ帳とかもってないかな」と問いかけてみる。
「ん?あぁ、持ってるよ。何色がいい?」
サボくんは胸ポケットに手を突っ込んで、黄色、青、緑、ピンクと層になっている付箋メモを取り出しては私に向けて色を求めてきたので、「じゃあサボくんの髪色で黄色にしちゃおうかな」と黄色の層を指させば、サボくんは少しばかり目を瞬かせた後、くしゃりと笑って「了解」と言いながら黄色を一枚くれた。
「ありがとう。……ふふ、それにしてもサボくんすごいね。胸ポケットに付箋いれてるんだ。」
「あー…これはほら、買い物するものを思い出した時に書いたりな。」
「買い物?」
「あぁ、おれはエースとルフィっていう兄弟と一緒に暮らしてるから飯は自分たちで作らなきゃいけなくてさ。」
「え、そうなんだ。大変だねぇ。」
「まぁでも、結構楽しいよ。仲の良い兄弟と暮らすのは。」
「へー……でもなんかわかるかも、私さぁ、親がいなくって施設で暮らしてるんだけど、結構楽しいもん。」
黄色い付箋ののりが渇く前に、付箋に大きく「2-3」と書いては、ノートの山とプリントの山の丁度間らへんにぺとりと張りつける。さぁこれで任務完了。の筈だったのだが、サボくんが積み上げたノートの山に肘をついて「そういえば、〇〇さんってカクと付き合ってるのか?」と突拍子もないことを言うから、私は思わず「へ、あ、え?」と言葉にならない音を零す羽目になった。
「ふは、凄い動揺だな。」
「サ、サボくんが急に聞くからじゃない…!」
「……いや、実はこの間、理科室でキスしてるとこ見ちゃって。」
ああ、あの時の。と記憶はすぐによみがえったが、それ以上に見られていたことに対する恥ずかしさで、まるで熱湯を被ったかのように顔が一気に熱くなって、私は両手で自分の顔を覆うと「忘れてください…ッ」ということが精いっぱいだった。
「…図星か、………――随分と―が早いな。」
サボくんが何か言ったようだったが、最後あたりは、丁度廊下に響いたチャイムの音で聞き取れなかった。恐る恐る顔から手を離して何と言ったのか聞き返してみたけれど、サボくんは「いいや、なんでもない」とにこりを笑んで答えてはくれず、それじゃあと質問を変えて「えっと、どうして聞いたの?」と問いかけると、彼は口元に笑みを携えたかと思うと肘をついたノートの山から腕を離して、かわりに私の両脇に手をついて逃げられないよう囲んでしまうと、そのまま距離を縮めてちゅ、とリップ音を立てて額へとキスを落とした。
「こういうこと。」
「はえ……」
あまりの事態に状況が飲み込めない。ええと、サボくんはいま、一体何をした?問いかけるにも目の前のサボくんは悪戯に笑って、「それじゃ今日のところはこれで、…またな〇〇さん。」といって、先に数学準備室から出てしまうし、触れた額には証拠なんてもの残っていないし。ただ、額に触れたそれがあまりにもリアルで、夢物語には思えず、私はへなへなとその場に座り込んでは「嘘ぉ……」と小さく零すことしか出来なかった。