駆け引き上手な先輩

「角名くんて、なんでいっつもパンツの中に手を突っ込んどるん?」

 練習試合前に声を掛けてきたマネージャーの言葉に、切れ長の双眼が瞬く。練習試合前にしては随分と呑気な質問だったからだ。よって、いま質問すべき事かと思うのは角名の談。しかし、彼女は北さんと同じく一つ年上の先輩で、尾白さんのように突っ込む事は出来ないし、かといって適当に返すのは礼儀に欠けるようにも思う。角名はパンツに手を突っ込んだまま、自分よりもうんと背の低い先輩を見下ろして呟いた。

「特に理由はないです、しいていうなら癖…?」

 そう、これは単なる癖だ。いつ始めたのかすら記憶にないほど、自然に身に付いた癖。だからパンツに手を入れる理由なんてものはないし、義務も無い。ただ、性別の違う彼女からすれば、何か見え方が異なるのかもしれない。

「やめた方がいいですか」

 尋ねると、××はウウンと悩む素振りを見せたあと、回答するよりも前にエイッと彼の頬を両手で包み込んで、ついでにもちもちと触りながら言った。

「ううん。ただ、こうやって隙あり!って悪戯されるんちゃうかなって」

 あ、でも、両手が塞がってるから、転んだ時に顔から突っ込まんか心配なのもある。鈴を転がすような声は、機嫌の良さと穏やかな心配を孕む。ただ、頬に触れる手のひらはじんわりと暖かく、それでいて心地よい。角名は頬から伝わる熱を受けながら、チベットスナギツネと称されるその双眼を細めて零した。

「……てことは、パンツに手ぇ突っ込んでたら、こうやって触ってもらえるんですか」
「え?」
「俺からしたらご褒美ですね」

 僅かに笑いを滲ませた言葉。その言葉を受けた彼女は、唐突なデレに等しい言葉に目を瞬かせていたが、流石は上級生だ。彼女は顔を赤らめるわけでもなく、ふっと息を漏らすように笑い「ほな、角名くんが試合で活躍したらにしよかな」と煽ると、彼はコート上に響く集合の声掛けを耳に、小さく息を落とした。