悪だくみコンビ

 アクアラグナの翌日。高潮に見舞われたウォーターセブンは浸水被害を受け、観光客はいまだ脛あたりまで浸かった街中を見てため息を吐き出すなか、現地で働く造船所・ガレーラカンパニーの従業員たちは毎年起こる恒例行事だと狼狽えることなくレインブーツに履き替えると、簡易的な歩道橋作りや、水路に流れ着いたゴミの除去作業に勤しんでいた。

「……毎年恒例だけど、今回も酷いねぇ」
「仕方ねぇさ、ウォーターセブンで生きるならアクアラグナと共生しなきゃいけねえ。」
「そりゃそうだけ、どっ」

 どぽん。水の中に潜ると、アクアラグナが拾って持ち運んできた瓦礫や何かの残骸を手首に括っていたパウリーから伸びる縄へと器用に括りつけて二度ほど下に引っ張って合図を送る。そうすると合図を受けたパウリーが引き上げるようになっているのだが、パウリーが残骸を引き上げていると、積みあがった残骸の下に残る残骸たちを見て思わずげんなりとしてしまった。

今日は随分と忙しい日になりそうだ。いまだ残る残骸たちを見ながら、次は何を括りつけようか品定めしていると、残骸の奥がきらりと光ったような気がして、残骸をかき分けてみると其処にあった物に、私は驚きのあまり水の中で口を開いて、ごぽっと大きな水泡が水面へと上げると、それを手に急いで水面へと戻った。

「ぶは……っ、ちょ、ぱ、パウリー…!!」
「あん?なんだよ、どうした。」
「す、凄いの見つけちゃったんだけど……!」
「………ハレンチなものなら見ねえからな」
「違うってば!………ねね、パウリー、ちょっとこっちきて」

 二度ほど手招きをするとパウリーは訝し気な表情を浮かべながらも水路までじゃぶじゃぶと水をかきわけながら近付いて、尻を濡らさぬ程度に膝を曲げては水面から顔を出す私を見た。私は無駄に用心深くきょろきょろと辺りを見渡すと、水の中からアタッシュケースを取り出した。それにはパウリーも大・歓・喜。ぱああと花を咲かせるようにそりゃあもう嬉しそうな笑みを浮かべたが、すぐに私と同じように用心深く辺りを見回した。

「おい、これ中身は見たのか?」
「見たみた、というか水中の中では半分開いちゃってて、宝石とか金が入ってた…!」
「うおおお、まじかよ!」
「どう、パウリー。これ一緒に換金しにいって、山分けしようよ」
「名案すぎるな……よし、そうと決まれば―――」

その時だった。ぬうっと背後から大きな影に包まれた二人はなんだか物凄く嫌な予感をして言葉を止めると、予感通りか、長身の帽子を被った男が訝し気な表情を浮かべて二人を見下ろした。

「おぬしたち、一体何を企んでいるんじゃ?」

パウリーとアネッタに対して信用という言葉はないのだろう。表情も含めて第一声が完全に何かを疑っているし、パウリーとアネッタもカクの言葉を受けてぎくりとした表情を浮かべている。
「ゲッ…、カク!」
「ゲッとはなんじゃ、ゲッとは」
「いやあ、あはは………」
「………ム、それじゃな?」

笑って誤魔化すアネッタを見つめるカクの瞳がやたらと怖い。

カクはアネッタとパウリーを交互に見たあと、膝を折ってしゃがみ、二人の手元にある濡れたアタッシュケースを取り上げると、二人は同じように「あっ」という顔をしては取り返そうと手を伸ばすので伸びてくる四本の腕をすいと避けながら、やはりこれが原因かと息を落とした。
「アネッタ、これは?」

 パウリーよりもいくらか素直なアネッタに問いかけたカク。しかしアネッタは何やら必死な様子で「お、………っ、落とし物!」と声をあげるので、

「そうかそうか、それじゃあわしが海兵たちに届けにいってやろうかのォ」

と立ちあがると、アネッタは「わー!ごめんなさい嘘です!!」カクの足にしがみついた。

「……それでこれには一体何が入っとるんじゃ」
「金とか宝石とか…。」
「じゃあやっぱり海兵行きじゃな」
「なんでだよ、おれたちでパーッとつかっちまおうぜ。」
「いや、それはいかんじゃろう。困っておる人がいるかもしれん」
「お前は真面目すぎるんだよ!」
「そーだそーだー」

カクは少なくともこの二人よりも真面目なようで、濡れたアタッシュケースを撫で水滴を払い落としながらパウリーの提案には乗らず首を左右に振ったが、それを面白くないと思うどうしようもない二人は猛抗議を上げた。まぁアネッタにいたっては完全に悪乗りなのだが。
カクは抗議を上げるアネッタを見ると、もう一度だけしゃがんだかと思うと、でし、と鈍い音と共に頭にチョップを贈って鼻を鳴らした。

「あ”う、う!」
「これは没収じゃ。…お、丁度良いところに海兵がおったのう。」
「わーん!私が見つけたのに…!」

チョップを受けた頭を押さえるアネッタの泣き言を聞きながら、カクは少しばかり軽い足取りで海兵の方へと足を進めていった。

「ちぇー…別にチョップしなくたっていいのに…真面目に働くかぁ。」

あのお金があれば結構おいしいものだって食べれたし、可愛い洋服だって変えたっていうのに。思い浮かべていた異なる欲望を中々捨てきれず、海兵へと届けに行くカクの背中を見送るほかない私たちは顔を見合わせてはぁ、とため息を吐き出した。

「…いやしかしお前ら本当仲いいな、幼馴染つったか?」
「そうだよー」
「…あのよ、おれァ前々から気になってたんだがおまえら付き合ってんのか?」
「………はぁ?何よ、藪から棒に。」

藪から棒にも程がある。それに彼が色恋沙汰の話題を出してくるのもなんだか意外で、アネッタは頭の上に疑問符をたくさん浮かべながら質問に質問を返すと、パウリーは頭を掻きながら考察というべきか推理を並べはじめた。

「いやー、お前ら毎日一緒に帰ってるし、朝も殆ど一緒に出勤してきてるだろ?しかも幼馴染つって、アイツはお前に世話を焼いてるし、お前はお前でアイツを気にかけてるしよ。となれば付き合ってるって思うのも無理は無えだろ。」

恋人だと公言したことはない筈だし、そのような事実もない。しかし彼の言う”私たちにとって当たり前の行動”は当たり前とは違ったようだ。パウリーの言葉を受けた私はちゃぷんと水を揺らしては浸水した道路に上がって、水路側に足を伸ばしたまま視線を足先に向けた。

「まぁ、それはそうだけどあくまで幼馴染ってだけよ。……まぁ、カクが私のことかなり気にかけてくれてるのは気付いてるんだけど、でも、それもただの幼馴染だからだと思うし。それにほら、カクって弟みたいな…、そんな、感じだし。」
「そうかァ?」
「それに、カクの方が迷惑に思んじゃないかなぁ。だって昔から一緒なんだもん、恋人扱いまでされちゃったらげんなりしちゃうでしょ、普通は。」

なんとなく自分で言っていて心がずしりと重たくなった。どうしてこんな気持ちになるのだろう。
と、そこに伸びる影と聞き覚えのある言葉。

「まだ仕事再会しておらんかったのか。次はどうしたんじゃ」
「あ、カク」

 私を覆う影を見上げるとカクとばちりと目が合った。私は別に悲しんでいたつもりではなかったが、彼は私の目を見れば感情なんてわかってしまうのだろう。少しばかり眉間に皺を寄せたカクは、パウリーに疑いの目を向けて「何かまた余計のことを言ったんじゃないじゃろうな」と問いかけて、パウリーは「別に余計なことなんかいってねぇよ!」と前置きをした上で、説明をするのだ。


「いやー、お前ら付き合ってると思ってよ!そしたらコイツ、お前のことは弟みたいなもんだって…」


 最後まで言い切る前にカクがパウリーの背中をドンと足裏で押して、パウリーは水路の中にどぼんと音を立てて落ちる。高く水しぶきが上がって、パウリーの猛抗議がぎゃんぎゃんと煩いほどに響いたが見上げたカクはなんだか怒っていたような、そんな表情をしていて、ついつい私は彼らの間に入って仲裁に入るのだった。