君の誕生日

左手の薬指にある金色の指輪を見て、私はため息を落とす。8月7日。今日はカクの誕生日だ。
今日がカクの誕生日であることは前々から分かっていたし、誕生日プレゼントだって毎年恒例のお菓子と新しい帽子を用意していた。

ただ、二日前の誕生日に渡された金の指輪のことを考えると、明らかにつりあいが取れていない。かといって、あのあとカクの指輪を買おうにも、任務が続いていたこともあり指のサイズを測ることは出来なかったし、突貫工事で作るわけにも、エイヤーと勢いのまま購入することも出来ずに当日を迎えてしまった。

「カク、お腹の具合は?」
「もちろん、空いておるぞ。」
「それはよかった。」

本日の主役は椅子に座らせて、二人で向かい合って座るのには少し手狭なテーブルに用意していたものを並べると、本日の主役であるカクが「おお!」と声を上げながらそれを見た。テーブルの上に並んだのは一枚のお皿で、その上には四角いキリンのケーキが鎮座している。キリンの色に寄せるために黄色と茶色を多用しやすいプリンケーキに挑戦してみたのだが、うまくいって本当に良かった。彼の反応に安堵しながらスプーンを手渡すと、受け取った早々に早速スプーンを突きさして食べる彼。うーん、躊躇というものがない。

「んん、これはプリンじゃな!」
「そうだよー。キリンさんは茶色と黄色が多いでしょ?だからプリンだったらイケるって思ったのよねぇ」
「うん…うん……味もうまいのォ、甘すぎずで丁度良い。」
「ふふ、それは良かった」

うまいうまいと、機嫌が良いのか声を弾ませながら食べ進める彼はなんだか子供のようで、そんな彼を見ていれば頑張って良かったなぁという達成感みたいなものがじわじわと募るわけだが、同時につりあいの取れていないプレゼントであることも実感して、感情はぐちゃぐちゃで。それを隠すようにもう一つ買っておいた帽子を取り出して、彼の頭に被せてやると、プリンケーキを頬張っていた彼がうん?と目線を上げた。

「あ、こちらもプレゼントです。」
「おお!新しい帽子じゃな、…うむ、被り心地もいいし気に入ったわい。」
「そう?ならよかった」

彼が喜んでくれたこと、用意して良かったという達成感、それからつりあいの取れていないプレゼント。それらに感情がぐちゃぐちゃな私は、せっかくカクが喜んでくれたというのに手放し喜ぶことも出来ずに乾いた笑いを落とせば、カクも私が何かいつもと違う事に気付いたようで、こちらをじいっと見つめる。

「……ん、どうしたんじゃ?」
「………あの、さぁ。」
「ん?」
「プレゼント…実はそれだけでして……」
「うん?あぁ、それがどうかしたか?……あぁ、お礼を言っておらんかったか。すまんのう、ありがとう。」
「あっ、そ、そうじゃないの、…あの、申し訳なくって」

予想外の言葉だったようでカクはぱちぱちと瞬きを繰り返したのち、わけがわからんとばかりに首を傾げた。

「?なんでじゃ、このケーキはアネッタの手作りで、この帽子だっておぬしが考えて買ってくれたものだろうに、何をそう申し訳なく思っておるんじゃ。」

確かにこのプリンケーキは私の手作りで、帽子だってカリファと一緒にお店を回って購入したものだ。それは間違いない。しかし私の薬指で光る金色の指輪と比べたら、あまりにつりあいが取れていないじゃないか。

「だってカクから貰った指輪と釣り合わないじゃない。」
「んんん?いや、プレゼントに釣り合う釣り合わないはないじゃろうに。」
「だってあんな特別なもの、……返すにもこの短期間で用意できなくって…。」
「なんじゃ、何か用意しようとしてくれたのか?」

そりゃあそうだ、彼に貰って私があげない理由がない。カクはきっと知らないのだ。彼が思う以上にカクのことが好きだってことも。離したくないと縋りたくなるようなこの気持ちも。だからこそ特別な価値を持つこの指輪に対して、急ぎで用意したものを贈りたくなかったのだ。
私の思いなんて気づいていない彼は不思議そうにしていた。私は彼の空いた左手を取ると、そのままいつかの彼がしてくれたように薬指を撫でたのち、薬指の付け根へと口づけを落としてから視線を彼へと向けた。

「私もカクに指輪、プレゼントしたいんだけど……だめ?」

きっとわしらは結ばれない。彼女が生き残りの竜人族である限り、世界政府が管理をしている限りわしと彼女との恋愛は許される事はない。なのに、彼女から受ける言葉はあまりに暖かいから、わしはもしかしたら、という期待を抱いてしまうのだ。

「カク、大好きだよ。」
「……わしもじゃ。」

たまらなく泣きたくなるような愛情はじわりと心に染みるようで、彼女の体を抱きしめながらこの関係性がいつまでも続くことを、ただ祈り、願うのだった。