ポメとおれ(🥖)

 早朝の散歩を終えて、玄関で飼い犬の足を拭く。犬種はポメラニアンで、名前はポメッタ。最初はポメ太と名付けていたものの、あとあと女の子であることが分かってポメッタに変更。当時は「そんなに名前をホイホイ変えても大丈夫なのかよい?」と友人から心配されていたし、ポメッタも呼びかけるたびに首を傾げてよく分かっていない顔をしていたが、それもようやく定着したように思う。

「あとは風呂に入って、それから飯を食おうな~」

 たんぽぽの綿毛を想起させる白いフワフワは、その言葉に尻尾を振りながらヒャン!と鳴く。いやぁ彼女が風呂好きでよかった。ペット用のバスタブを出してやると、まだお湯もいれていないというのに其処にちょこんと収まって、ニコニコ顔で此方を見上げてくる。……その可愛さといったら!此処で携帯片手に写真を撮りはじめるのは、きっと飼い主のサガってもんだと思う。
 散歩用の首輪を外して、それからお湯の温度を調整してからシャワーで体を洗い流す。いやぁ今日もよく運動したものだ。まだ子犬で足が短いせいか腹回りは泥だらけで、長い毛が泥や木の葉を巻き込んでいる。濡れて細身になっていく姿と、泥で濁るお湯を見ながら一度お湯を入れ替えて少しの入浴を楽しませた後、手早く体を洗って外に出る。
 出る直前のシバドリルならぬポメドリルは彼女の得意技で、大方は水毛を飛ばしてくれたので彼女専用のタオルで拭いて、最後はペット専用の乾燥機にイン。これもポメッタは嫌いではないし、むしろ好きらしい。扉を閉めてもわくわく顔のままで風を受けていたし、そのあいだ調理のために離れても怯える声は無い。

「…いやぁ……あれは今年イチ買って良かったよなぁ……」

 乾燥機を嫌がる子は多いって聞いていたし、イチかバチかの購入であった。けれど予想外に彼女は嫌がらなかったし、何より真っ白フワフワで汚れやすく風呂の回数が多い彼女にはうってつけだとも思う。その間、自分の手が空く事もお気に入りである理由の一つで、手が空いているうちに作り置きした犬用のポトフをレンチンして、冷ましついでに蓋を開けた。
 その間に乾燥機が終わったようでポメッタの呼びかけが聞こえて、扉を開けてやるとモフッとふんわりしたポメッタが出てきて「うわ、綿毛の精霊かと思った!」と大げさに言うと、彼女は嬉しそうにニパッと笑いながら尻尾を振った。


「さーて、今日はどの首輪にしようか?」

 それから取り出したるは、これまで購入した首輪を詰めた首輪ボックス。シンプルな作りから、フリル盛沢山で色鮮やかな布を使った首輪まで。ポメッタに似合うんじゃないかと見かけるたびに購入した首輪たちに、ポメッタはフンフンと鼻を鳴らして近付くもののこの先の決定権はサッチにある。それをポメッタはよく理解しているようで特に荒らしはせず、ファッションショーよろしく何度もつけては変えられる首輪に、愛くるしく尻尾を振ったり両手をクイクイと動かしたりと愛嬌を振りまいていた。

「……うん、…うん、今日はこれだな、イイ、おれっちはこれがいいと思うぜポメッタ!」
「ヒャンッ!」

 そうしてようやく決まった今日の首輪。レモンだとか、オレンジの輪切りのイラストが描かれた鮮やかな三角バンダナは、彼女の真っ白な身体によく映える。心なしかポメッタも嬉しそうでぐるぐるとサッチの周りを歩いてヒャンと鳴くが……いや、これは終わったなら早くご飯を食べさせて!という要求か。こういうところはやっぱり子犬っぽいというか犬っぽいというか。ひとまず立ちあがってキッチンへと立ちドッグフードと、それからその上に冷ましてやった犬用ポトフを入れて誤飲防止に崩してやると、ご飯場所で待ちきれずにウロウロしているポメッタに声を掛けた。

「よーし飯だぞ、ポメッタお座り。…よしよし、待て!」

 ポメッタのお座りは完璧だ。まだ子犬なのになかなかの優秀さだ。さすがはおれっちの犬。……けれども食にはまだまだ我慢が出来ないのかお座りしながらも、キュンキュンと鼻を鳴らすように鳴く彼女の口からは涎が垂れている。加えて待てをしているのに、お座りをしたまま右に左にと器用にテチテチ移動して鼻先を近付ける様子に、コラコラといって手で押さえて見るもハラペコキッズの力は強い。鼻先で押される手の隙間から、べろべろと舌が伸びる。なんて卑しい犬だ。けれどもあまりの勢いに止める事も出来ずに手を離すと、彼女はそれを良しと捉えて食べ始めた。

「ああ……待てと早食いはどうにかしねぇとなぁ……」

 嘆いている合間も、ポメッタはがつがつとご飯を食べる。そういえばラクヨウが教えてくれた早食い防止の皿でも導入してみようか。ラクヨウの家にいるボクサー犬に合わせるのはちょっと怖い気もするけれど、交流してみるのも良いかもしれない。いや、いやいやいや。……まぁ、彼女はこの家に来てまだ半年もたっていない。焦るのはまだ早いか。息を吐き出したサッチは食事を邪魔しないよう立ちあがると、残った飯でも食べるかとリビングへと向かった。