これだからノンデリは!

「…った、…は…っ、…っは、…は」
「ねぇ、いつまで笑うの?」

 悪役バカ令嬢役はお前しかいねえ!そんな不名誉な推薦を受けて用意されたドレスは、舞踏会の場には相応しくない時代離れのデザインであった。
 大振りのフリルに、ゴテゴテしたフリルリボン。胸元にある大振りのハート型ブローチは煌めきを放ち、その脇を飾る七色に構成したカラーダイヤが趣味の悪さを物語る。加えて前髪を三つ編みで横に流してリボンで留めるのも趣味が悪く、極め付けに真っピンクのドレスは色合いだけでよく目立つ。何より、平々凡々な小麦色の髪と合っていない。総じて珍妙であるとヒイヒイと笑うカクは、腹を押さえながら机を叩いた。

「は、腹が捩れるわい…!」
「酷いやつだよねカリファ、一回殴ってもいいかな」
「よしなさい、仮にもダンスパートナーでしょう」
「大丈夫、見えないところを狙うから」
「ヒ…ヒ……しゅ、趣味は悪いが…は、ハマり役じゃ…っあ。アネッタ、お前…っいちばんのはまり役じゃぞ…!」

 何が一体ツボに入ったのかサッパリ理解出来ない。ただ、兎に角馬鹿にされていることだけは確かで、拳を握ってみたが彼とは三十cm近い身長差があってリーチ差がある。よって頭を抑えられてしまうとこちらが腕を伸ばしても届かない。反撃することも叶わない。アネッタが拗ねて頬を膨らませると「おぉ、馬鹿な悪役令嬢の演技もうまいのう!」と笑われてしまい、ついにキイ!と猿のような叫びを上げてスネを蹴り、怒鳴った。

「最低!ばか!足長キリン!」
「っお゛……、まえ…向こう脛は…っ゛反則じゃぞ……」
「喧嘩に反則もなにもないですけど…?」

 フン、と鼻を鳴らすアネッタ。全くおしとやかに育ってくれたら、こうして悪役バカ令嬢に抜擢されることもなかっただろうに。こういうヤンチャというか、短気なところばかりジャブラに似てしまった。ジンジンと痛む足を軽く振りながらもそっと距離を詰めると、カクは悪役バカ令嬢をひょいと抱き上げた。

「わあっ!」
「わははっ、機嫌を直せ!お前のようなバカ令嬢でも、趣味の悪いドレスでも可愛くて仕方がないわい!」

 持ち上げたまま、カクは笑顔で言う。あまりにも酷い物言いで全然フォローになってないと言いたかったが、その一方で彼の熱を持った眼差しが嘘はないことを示す。加えて、その眼差しがあまりにも熱いものだから、アネッタは顔に熱を集めながら「…う、嬉しくなぁい……」と言葉を濁らせた。