幼馴染だからね

「おうおう……いい加減に機嫌を治さんか」
「ふーんだ、別に怒ってないもんねー」

 こっちの方向に用事なんてないくせに、赤ちゃんの後追いみたいについてくる足取りは早い。それに負けじとこちらも早足で歩くけれども、カクとの身長差は三十センチほど。頑張って歩いても彼の長い足には勝てずに、すぐに追いついたカクが手を伸ばす。
 しかし、いまは触れられたくもない。よって、それを弾く代わりに「剃!」……で逃げたのは、なんともサイファーポールらしい方法だったと思う。ただ、此方に話しかけてくる相手もまた、同じ故郷で育った六式使いだ。

「おんどれ、剃で逃げるんじゃない!」
「カクだって剃使ってんじゃん!!」
「お前が逃げんかったら使わんわい!」
「はいダウトー!ぜーったいにウソ!ウソおっつー!」
「ッ貴様ァ……わしを侮辱する気か!」
「侮辱もなにも真実ですう!べーべろべー!」

 お互いに“剃”を使いあってのおいかけっこ。もはや逃げてるんだか、追いかけているんだかも分からず。とにかく伸ばされる手を避けて、払って。時には彼の手首を掴んでご自慢の長い足の間を滑って逃げたが、そういえば此処はエニエスロビーで、広い塔内では声もよく響く。
 それに剃を使いあえばそれなりに埃も舞って、 気付けば、私たちはブルーノから首根っこを掴まれていた。

「いい加減にしろ」

 右に私で、左はカク。首根っこを掴まれた私たちの身体は地に足がつかずにプランと揺れる。
 けれども、この左に持ったカクという男はなんとも底意地が悪いやつで、捕まって距離が近くなったことをいいことにボカッと頭を殴ってきた。それも手で軽くはたくようなものじゃない。思い切りグーだ。グーで殴ってきた。

「いたぁい!!ねえ、ブルーノ!!カクが殴ったぁ!!」
「フン、そもそもお前が逃げなければこんなことには……あだーッ!ジャブラ、何するんじゃあ!」
「オメーも同罪だ狼牙、しかも手ぇだしてんじゃねえよ」

 拳を握ったジャブラが面倒くさそうな顔で叱る。その拳からは煙が出ており、打撃性の高さがよく分かる。これには思わず私もお口にチャックをして、借りてきた猫みたにい大人しくしたもののカクは引っ込みがつかないのか不満げだ。首根っこを掴まれたまま、腕を組んでフンッと顔を逸らした。

「カーッ、相変わらず生意気なクソガキだなァ!テメェは!……それで、今回の喧嘩内容は何だよ」
「あ!聞いてよ、それがさぁ明日の任務帰りは一緒にジャンボパフェ食べようねっていってたのに、今になって嫌だって言いだしたんだよ?!」
「それは、きょうは気温が冷え込んどるから腹をこわさんよう別のものにせんかっていったんじゃろうが!」
「お腹なんて壊さないもん!!」
「普段から体温の低いお前のことを思っていってやっとるんじゃぞ?!」
「別に食べられますう!ねえ、ジャブラどっちが悪いと思う?!」
「く、くだらねー……」

 そうして、もう一度適当に頭を叩かれて解散。その後はもう喧嘩するなよと釘を刺されて部屋に戻されたが、イライラとした気持ちが晴れることはなくベッドまでついてきた。それもフテ寝してやろうと思ったのに、後ろから腕を伸ばして抱きしめるので逃げる事も出来ず。無視をして毛布を引っ張ると、彼はそれを引き上げて、私のお腹にかけながら言った。

「……そういえば、明日から数量限定で新作ケーキが出るって噂じゃぞ」
「……」
「それも、お前が好きなタルトタタンらしい」
「えっ」
「それに、期間限定のミニパフェも出とるらしい」
「……じゃあミニパフェとケーキ頼んでいい?」
「ま、それならええじゃろ」

 穏やかな言葉に、ぎゅうっと抱きしめる腕の力。
 もしも、私が赤ずきんだったら「どうしてカクの腕はそんなに長いの?」と聞いたと思う。……そうしたら、カクは「お前を抱きしめるためじゃ」っていってくれるかな。なんてね。ふふ。
 一人笑っていると、カクがぎゅーっと抱きしめる。その力は今までよりも力強くて、ますます笑いが止まらなくなってアハアハと笑いながら肩を揺らした。

「なーに一人で笑っとるんじゃ」
「んふふ、カクが狼だったらどうしようって考えてたの」
「はあ?」

 彼は瞬きを繰り返したあと、意味わからんって顔をしていた。それでもぎゅっと抱きしめられたときに込められた力が緩む事はなく、影はひとつに大きく重なったまま、私たちは瞼をとじた。