荒川真澄
「はは……なんだ、随分と人懐っこいな」
荒川組の事務所内。一等良い机の上を陣取る小さな竜は、向けられた指先に鼻を寄せて、そのまま頭を擦りつける。ゴツゴツとした頭は決して手触りの良いものではないが、目を細めてキュウキュウと頭を擦りつける様は甘えん坊で、見ていて気分が良い。一体どこを触れば満足するのかは分からないが、同じように瞳を細めて竜の顎を撫でると、「親父、わけのわからないものを触るもんじゃありませんよ。噛まれたらどうするんで」と警告する沢城に向けて「その時は、その時だ。……なあに、そこいらの犬猫と変わらないさ」そう言って金色の瞳を向ける小さな竜に向けて「なあ?」と尋ねた。
沢城
「……全く厄介なもんを……さっさと売り捌けばいいものを」
そうしたら、懐が十分温まるだろうに。荒川真澄が席を立ったあとの事務所は、随分と冷え切っていた。先程の空気がまるで外へ抜け出したようなその違和感。小さな竜は本能的に後ずさり、ウルルと牙を見せて威嚇をするも沢城の瞳が揺らぐことも、緩む事は無い。「……フフ、まあいい。俺も親父のお気に入りを勝手に売っぱらうほど間抜けじゃねえ。……せいぜい捨てられねえよう媚びるんだな」低い声は釘を刺し、適当にそこいらにあった組員のパンを取ると、袋の口を開けてドラゴンの前に落とした。「イチ、コイツはテメェが世話をしろ」そう指示を出す声は事務所のなかで静かに響いたというのに、次に向けた視線は僅かな笑いで「食わねえのか」という問いが小さな竜を見ていた。
春日
「すげぇ……本当に竜じゃねえか……」
まるでゲームの中から飛び出してきたようなその姿。年甲斐もなく勇者に憧れを抱いた一番にとって、その小さな竜は奇跡の存在だった。空を飛ぶための翼に、口からぽっと出る小さな炎。想像以上にその存在は小さかったけれども、それでも十分だった。
「……」
一番はクルクルと喉を鳴らす竜を見る。親父が居ない事を理由に差し出した手は情けなく震えていた、あまりの震えように一瞬手を引こうとするも、それを追いかけるように竜がすり寄って、その上で羽を休めると鼻の奥にツンとしたものが広がった。「すげぇなぁ……。……俺ぁ、いつかはお前みたいなモンスターってやつに会いたいって、……大人気ねぇし、馬鹿みたいかもしれねえけどよ、本気でそう思ったんだ」「なぁ、俺は春日一番ってんだ。お前はなんて名前なんだ?どこから来たんだ?」「良かったらよ、俺と……友達になってくれねえか」彼の憧れを込めた言葉は優しく響く。竜もそれに応えるよう金色の瞳を向けると、キュワキュワと言葉にもなっていない鳴き声を上げ、尻尾を揺らした。