怒り任せに噛みついて

 現在、昼休憩。賭けに負けた私はうつ伏せになったジャブラの上に跨って、両肩に手を添えるようにして肩を揉んでいる。筋肉質だからなのか、それとも単純に肩こりによって張っているのかとんでもなく固い。鉄塊でもしてるのかと彼を見つめたが後ろからでは分からない。いや、でも固いんだよなぁ。親指に体重をかけても沈まないし、ガッチガチだ。そこで鉄塊をしているのか確かめるべく、私は右肩から手を離すと後ろから彼の耳に指先を這わせて穴に指先をつぷりと入れてみる。
 その瞬間ジャブラの体がさらに強張って、耳が一気に赤く染まってジャブラが吐息を落としたかと思うと、床を思い切り殴って声を荒げた。

「あ、ひ…っ、……っっんだよ!!ぶっ殺すぞ!!!!」
「あ、いや、めちゃくちゃ固いから鉄塊でもしてるのかと」
「してねーよ!おれになんのメリットがあんだよ!いいからさっさと揉みやがれ!!」
「はーい」

 いや、まぁなんか喘がせちゃったもんな。うん。見てはいけない部分を見た様な気がする。こんなとこ他の人に見られちゃったら多分恥ずかしいもんな。妙な緊張感を覚えながらあとはおとなしく鉄塊をしていないらしいがっちがちの肩を揉んでいたのだが、いきなりカクに見つかってしまった。

「………何をしとるんじゃ」

 目深く帽子を被っているせいで表情を見えないが、心なしかいつもよりも声が低く聞こえる。

「よお、カク。何って見てのとおり賭けで勝ったからマッサージさせてんだよ。」
「…アネッタ、ジャブラなんかに乗らんでいい。今すぐ降りんか。」
「え?なんで?」
「なんでって」

 私が首を傾げるとカクは言葉を詰まらせる。別に何かやましいことをやっているわけではないし、怒られるような事ではないと思うのだが、私の下にいるジャブラはうつ伏せのまま顔を少しカクの方に向けると、にやにやと笑って「カーッ、これだからムッツリキリンは!」と声を弾ませた。

「むっつり?」
「こいつ、おれとお前が」
ジャブラの言葉が途切れ、私の体が突然宙に浮く。
「わ、あ!?…っん、む……っんん」

 一瞬何がおきたのか分からなかった。
突然、カクから両腕を拘束するように抱きしめられた私は、そのまま両足が浮かぶほどに抱き上げられて足がぶらんと揺れる。それから言葉を発さぬカクから噛みつくように唇を塞がれて、抵抗をするにも両腕は自由が効かず、唯一の自由の利く足をばたつかせてみるものの、彼はビクともしない。呼吸をするにも唇に割り入った舌が口内を牛耳り、拒むことを許さぬため、息継ぎの出来ない私は短く呻きながら浅く呼吸を吐き出すことが出来なかった。歯列をなぞる舌の感覚にぶらんと浮いた足が力なく揺れる。やがて酸欠により頭がぼんやりと霞がかった頃合い、ようやく唇が離れて唇を繋いだ透明な糸がぷつんと切れてしまった。

「………乗るな。」
「…ふ、ぁい……。」

 嫉妬が焚き付けた、深い欲を孕んだ眼差しに、私はひとり息を呑んだのだった。

「いやお前ら他所でやれ!見たくねーんだよ!!」

もうやだこいつらって項垂れるジャブラの声が虚しく響いた。