スペシャルフルーツ大作戦!

 私の誕生日が八月五日で、カクの誕生日が八月七日。二日違いの誕生日ともなると、お祝いをひとまとめにされることが多いのだが、今年はどうにもタイミングが悪かった。カクと私以外、みんな仕事で家を空けることになったのだ。

 折角シェアハウスで、一つ屋根の下に暮らしているというのに、なんだか寂しい誕生日になってしまった。ただ、ここで寂しいと言いつつ口角が上がるのは、みんなに誕生日プレゼントとしておねだりした高級フルーツたちがあるからかもしれない。

「ブルーノがシャインマスカットで、ルッチがメロン、ジャブラが買ってくれたのがマンゴーでフクロウが桃、クマドリがキウイ…あとはカリファがイチゴ……だったよね」

 ダイニングテーブルいっぱいに乗った果物たち。千円程度のもので良いといったのに、桐箱に入っているあたり、随分と良いものを買ってくれたようだ。カリファに関してはネイルセットまでプレゼントしてくれたのに、なんだか申し訳なくって、別途お礼を言ったが、彼女は「じゃあ、帰りに寄るから私の分も残しておいて」ときたもんだ。

 そんなことを言われたら、今日のスペシャルフルーツタルト大作戦は大成功を収めなければならないではないか。うん、やる気が出てきた。

 居残り組のカクは、隣でいっぱいのフルーツを見て「これが誕生日プレゼント?安い女じゃのー…」なんて、呆れたように言っていたが、高級フルーツなんてその名のとおり高すぎて滅多に買おうと思わない。だからこれは私にとっての一番の我儘なのだが、彼としては大好きなバナナがなくて面白くないのかもしれない。

「じゃあカクは食べないってことで」
「ああー…嘘、嘘じゃ。すまん、悪い、わしも食べたい」

 ほら、やっぱり。
 私は彼を見上げてじとりとそれらしく睨んだが、彼が両手を揃えて謝ってくれば許すしかない。私は彼の腰あたりを叩いて「じゃあ手伝ってね」と笑うと、そろそろ冷めたであろうタルトを取りにキッチンへと戻った。

 スペシャルフルーツタルト大作戦を完遂するために用意したカスタードタルトは手作りだ。このカスタードタルトを作るのは何度目になるだろう。それも分からないくらいお気に入りレシピのそれは、失敗したことが無いくらい手軽で、それでいて美味しいと評判だ。

 あとは残りのカスタードを、ぐるぐると渦巻きを描くようにして絞ってやれば準備は完了。その間に「忙しいのう!」と何故だか苛々しながらも必死に皮むきやら種取りやらをしてくれているカクのいるリビングへと運んでやれば、思ったよりもフルーツたちの前処理は完了していたように思う。
 ひとまず彼のイライラを抑えてやろうとシャインマスカットを一つ取って、彼の唇に向ける。彼はじとりと此方を睨んで「わしをいいように使いおって…」とかなんとか言っていたが、シャインマスカットをひとつ食べると、そりゃあもう見事なまでに手のひらを返して「もう一個くれたら許してやる」と言っていた。ふふ、なんて安い男だ。

「んふふ、高級フルーツの凄さが分かった?」
「全然違うのう……のう、タルトに乗せる果物はこれを多めにせんか?」
「え?別にいいけど、他のフルーツは?」
「わしはこのシャインマスカットがうまかった」
「ほう……?」

 言いながら、そこらへんに置いておいたフォークを手に、マンゴーを刺して口元に向ける。カクはシャインマスカットが食べたそうであったが、マンゴーを一口食べると目をきらきらっと輝かせて、次にメロンを与え、その次にはいちご、桃、キウイと与えていくと最終的に「なんじゃあ全部うまいぞ…!」とやけに驚いた様子で感動していた。

「でしょう…これで私が安い女じゃないと分かった?」
「ああ……こりゃあお前が頼んだ意味も分かったわい……」
「でしょ~!だ、か、らこのスペシャルなフルーツでフルーツタルト作るってわけ」
「そりゃあスペシャルじゃのう…く……わしも高級バナナを買って来ればよかった…!」

 そういえば高級バナナも桐箱に入っているんだろうか。なんとなくバナナって庶民の生活に寄り添うフルーツというイメージで、桐箱に入っているようなイメージはないが、バナナが一番好きな彼のことだ。きっと桐箱に入ったお高いバナナを買ってきてくれるはずだ。

「あは、じゃあそれは来年だね」
「ん!じゃあまずはタルトを完成させんといかんのう、……よしアネッタ最後に一つずつ味見するぞ」
「お、いいねぇ」

 これがあるから手料理というものは愉しいんだ。買うのも好きだけど、これはこれで楽しいことが多い。

 結局フルーツタルトが完成したあと、わたしたちはフルーツの殆どを食べてしまって、フルーツタルトまでは食べられなかった。けれど出来上がったフルーツタルトはみんなが口を揃えて美味しいと言っていて、私たちがようやくそれを口にできたのは翌日の朝だったが、寝ぼけ眼で食べたフルーツタルトはスペシャルに美味しくて、私とカクは顔を見合わせて「美味しいねえ」「うまいのう!」と笑いあうのであった。