「ははあ、こりゃまた随分と酷えツラだな」
ハイマンス・ブレダの笑い混じりな言葉に、そういえばこの男は士官学校の時からこうだったと思い出す。
重たげな瞼に刈り上げの髪。不真面目そうな言動とは裏腹に、士官学校で首席だった彼はいつだって優秀で、彼にはついぞ成績でも能力でも勝てなかったが……今日ばかりはこの睨みも許してもらいたい。
「ええ、ええ、まさか徹夜明けにバーベキューに駆り出されるなんてね」
一体なにがどうしてバーベキューなんてしているのやら。私はこの中央司令部に異動したばかりでいまいち掴めていないが、中央司令部とは随分と平和ボケしているらしい。……まぁ、世の情勢を考えれば喜ばしい事なのであろうが、それにしたって一体どうしてバーベキューなのだろう。
そんなことを考えていると、視界の端からヌウと現れたアルフォンス・エルリックが「××少尉ごめんなさい、お忙しい時に」と頭を下げ、それに続いて兄のエドワードが「仕事量が多いのなら、大佐に俺から言ってやろうか?」と声を掛ける。エドワードのそれはどこか笑い混じりで別の企みを持っているようにも見えるが……兎にも角にも折角のバーベキューなのだ。彼ら子供が気にする事では無い。
××は首を振るうと適当に今ある楽しみへと指をさした。
「ううん、大丈夫よ。それよりも私まで招待してくれてありがとう。……あ、あそこのお肉とか焼けたみたいよ。エドワード君も食べてきたら?アル君も、目で楽しむことは出来るんじゃないかしら」
その言葉に笑い、駆け出す少年たち。その姿は何らほかと変わりない子供たちなのに、彼らの背負うものは重い。……せめて、きょう一日くらいは楽な日になれるとよいのだけれど。
彼らの背中を見送るなか、「優しいこったな」と笑う声が袖を引く。その声色は揶揄いと言うよりも、関心か。ブレダを見ると彼はナイフで用意されたパンの中心部に切り込みを入れて、ついでに網の上を転がるウインナーを一つねじ込んで差し出した。
「ほら、食えよ」
その声は、どこか優しい。
「……ありがと」
「おう、どういたしまして。……まぁ、飯も食ったら、多少は回復するだろうよ」
「え?」
「徹夜明けっていうのもあるんだろうけどよ、なんか元気ないように見えて」
違ったか?
彼の瞳が問いかける。
これだから。これだから彼のことが苦手なのだ。昔から小馬鹿にするような性格だったら嫌なやつだと嫌いになれたのに、彼が向ける眼差しはいつだって優しく私の事を気遣っている。今回のことだって、要領の悪さが徹夜の原因なのに小馬鹿にしない労う言葉がジンと染みわたる。なんだか、特別扱いをされているんじゃないかと期待してしまうのだ。……そんなわけがないのに。虚しさを覚えてホットドッグを食む。その様子をブレダはただ見ていたが、其処にロイ・マスタングが近づくと、彼は先手を打つように前に立った。
「うん?どうしたブレダ少尉」
「大佐、そいつには手を出さんでください」
その言葉は、いつになく愛想が無い。マスタングと××は揃って目を見開いたが、彼は少し気恥ずかしそうに頭を掻くだけで、誤魔化すように作り置きの冷めたホットドッグを頬張った。