ジャーッブラ!
後ろからソウと近付いて、おんぶしてもらう勢いで抱き着いてみる。勢いに押されて前のめりになったジャブラは呆れていたが、落としたらもっと面倒な事になると知っている。選択を天秤にかけて、後ろに腕を回すことで尻を支え、息を吐き出した。
「んだよバカッタ。随分と機嫌が良いじゃねえか」
「あのねえ、部屋に戻ったら手紙があったの」
「手紙ィ?」
蟹挟みで体を挟み込んで、おんぶをしてもらったまま手紙を出す。しかしおんぶをしてやっている彼の手は自由が利かずに「へぇそれで」と催促が返り、ダカダカダカダカ……とドラムロールを口で言いながら、たっぷりと勿体ぶって封を開けたり締めたりを繰り返したが、鬱陶しい事この上ない。さっさとしろと怒鳴られたので渋々出した後、今度はきちんと見えるように前に出した。
「じゃーん、招待状でした~!」
「あぁ?……あぁ、なんだ、今度のお茶会か。…へぇ、お前招待されたのか」
「そう!前に悪役令嬢役をした事があったでしょ?それで覚えてくれてたみたい」
「テメーを虐めた女を招待するなんて、あの令嬢も案外腹黒い女なのかねェ」
「私が可愛かったからじゃない?」
「うるせえブス」
「キイ!」
私は可愛いもん!昔から彼女はその一点張りで、これも幾度となく繰り返した会話だが……どうしてこうも前向きというか自意識過剰なのか。カクなんかは彼女に惚れ込んでいるようだが、ギャサリン派のジャブラからすればちんちくりんにしか思えない。背負ったままのジャブラは鼻を鳴らした後「それで?」と話の続きを促した。
「あ、それでね。お茶会の時に執事を連れていく必要があるんだけど、長官が執事役にジャブラを連れて行っていいって」
「はぁ?カクやルッチがいるだろ」
「カクはこの間の舞踏会でいいとこの坊ちゃんって役で私と踊ったから駄目~」
「……あの化け猫は」
「カクのところの執事役だった」
「ブルーノは」
「品が良すぎるから、馬鹿な悪役令嬢の横にいるのは浮いちゃうって」
「……、……おれだったらいいってか」
「あはっ、そうみたい!」
無邪気な笑い声が腹立たしい。あまりにも腹が立ったのでお辞儀でもするように勢い強く体を前に倒すと、これまた腹立たしいことに前転をした体が鮮やかな着地を見せる。それも両手を上げて、上手く行ったと言うようなポージング付きで。
腹が立ったので背中を軽くドンと押す。すると、小柄な体は簡単に前に倒れてキャンキャン喚くがいいザマだ。
ジャブラは「あーどっこいせ」とわざとらしく言いながら、うつ伏せに倒れた体に尻を乗せて座ると、カエルが潰れたような声が響いて、それを適当に流し尋ねた。
「面倒くせえなぁ……ただでさえ執事役ってのも怠いのにお前の御守りまでしろって?」
「なによう……別に御守りなんてされる気ないですけどぉ」
「へ、どうだか」
「ふーんだ、ジャブラだってその悪役面どうにかしてよね」
「あん?わあってるよ、髪を整えて眼鏡でもかけてやるよ」
「大丈夫かなほんとに」
「オイ、どういう意味だ!」
喧々囂々というよりも、キャンキャンワンワンか。二人のちょっとした言い合いはこのエニエスロビーに良く響き、スパンダム司令長官から直々にうるせえと怒鳴られたのはそれからすぐのこと。ジャブラは「お前のせいだぞ」と言い立ちあがり、アネッタも「ちがうよ、ジャブラのせいだもん」と言って立ちあがる。それから仲良く並んだ二人はそのまま暫く他責思考で責任をなすりつけあっていたが、喧嘩は犬も食わない。お互いに鳴り合う腹の虫を前に息を吐き出すと「飯でもいくか」と言って歩き出した。