年越し蕎麦

「はーい、年越しちゃった蕎麦出来たよー。」

 ハウスシェアで暮らす皆で囲むお正月。年越し蕎麦が出来たのは0時きっかりで、年を跨いでしまったものの、年越しちゃった蕎麦だって、略せば年越し蕎麦なので目を瞑って頂きたい。ひとまずみんなの分を乗せたトレイを手に、リビングにあるこたつテーブルに運ぶと、テレビを見ていた男たちがわあっと声を上げる。まぁ、わあっと声を上げたといってもフクロウとジャブラだけで、ルッチとブルーノは此方に視線を向けるだけだったのだけれど。

「何か手伝うか」

 こたつテーブルにトレイを置くと、ブルーノが零す。流石は気配り上手だ。
 わざわざ立ちあがろうとまでしてくれたので、「ありがと、一応お箸とか持ってきたから大丈夫と思う…けど、それよりカクはどこ行ったの?」と姿の見えないカクの事を問いかけると、ブルーノの視線が斜め下に向けられる。

「カクはそこで寝ているが。」
「え?」

 奮発して買った大振りのエビがどどんと二尾乗った蕎麦を配りながら、ブルーノが向ける視線の先をちらりと見ると、確かにカクは炬燵に入ったまま、体を倒してすうすうと気持ちよさそうに眠っている。

「あらー……、気持ちよさそうに寝ちゃって。」

 カクが年越し前に寝落ちるなんて珍しい。
 カクの分も含めて、全員分を配り終えると、彼らはカクを待つ気がないのだろう。各々自分のタイミングで手を合わせて「いただきます」と言って食べ始めたのだが、ずるずると蕎麦を啜る音や、美味いと落とす言葉が私の腹の虫を煽る。ああ、お腹すいた。

 ただ、今年はエビがでかいのう!と楽しみに待っていたカクを起こさずにいるのもなんだか可哀そうで、隣に座った私はカクの肩を軽く叩いてみたが熟睡中なのか、目覚めることがない。「おーい、カークさん」「年越しちゃった蕎麦できたよー」なーんて優しく声をかけてはみるが、カクは唸ることもなく、そりゃあもうすややかな顔で眠っている。それこそ長ーい鼻の先をつんつんと突いても反応なしだ。

「………カクくーん…」

 だめだ。まるで起きる気配がない。
 それからの出来事はちょっとした出来心だ。そう、例えばみんながTVを見ているうちに彼の唇に触れるだけのキスをする――とか。

「……流石に起きないか」

 そもそも何やってんだろ、私。王子様じゃあるまいし。
 我に返ってしまった私は、じわじわと体温が熱くなる感覚を覚えながら体を起こす。蕎麦をすする彼らはTVに夢中で、此方で起きたことなんて気づいちゃいなかったが、私はよほど変な顔をしていたのだろう。数分後にようやく目覚めたらしいカクが、体を起こして私の顔を見るや否や「どうした……顔赤いが、熱かのう…」と私に寄りかかりながら普段よりも幾分かふわふわとした様子で問いかける。
 ただ、ここで本当の事なんて言える筈もなく「そうかも…」と言葉を濁らせると、カクは不思議そうな顔をして、私の額に手のひらをあてるのだった。