上着を貸したようです

山井
寒い寒いと自分以上に凍えている姿にコートを被せると、今度は重いだのなんだのと帰ってきた。「面倒くせえなァ……」それは紛れもない本音だが、奪い返すには顔色が悪いように見える。ソファに腰を下ろしたまま、彼女の首根っこを掴んで自分の隣へと引き寄せる。それから力なく座る様子に溜息を吐き出すと、彼女側に少しばかり体重を預けた。
「山井さん重いよ」「お前に上着を貸したせいで寒いんだよ、大人しくしろ」「ええ?」彼女側に凭れると、彼女の髪が自分の頬にかかって自分のものとは異なる柔らかい香りが鼻を掠める。──そういう香水なのか、それともシャンプーなのか。分からないが、コートとはまた異なる温もりは心地よく、静かに瞼を閉じた。

難波
「……悪いな、そんなボロでよ」
咄嗟に上着を差し出したものの、彼女が受け取る瞬間ほんの少しだけ手を引いてしまった。……だって彼女はただの一般人だ。そんな彼女相手に毎日洗ってもいない上着を貸すなんて恥ずかしいと、そう思ってしまったのだ。けれど、元看護士からしても彼女の具合は明らかに悪い。それに今この場にいるのは自分だけで、上着を貸せるような知り合いはいない。
そんなわけで彼女には自分の上着を貸したのだが、どうにも申し訳なさや、腑に落ちない後悔ばかりが募る。ああ、せめて昨日洗っていれば。昨日はまさに天気日和で、手洗いしたって乾きそうだっただろ!……それなのに、彼女は怒らない。それどころかふにゃふにゃと柔らかく笑って「?ボロじゃないよ」という。
「難波さんが大切にしてる服でしょ、それなのに貸してくれてありがとう」
「××……」
どうしてこうも嬉しいことばかりを言ってくれるのか。一番も太陽みたいな明るい奴だと思っていたけれど、彼女もまた似たような温かさを持っている。……胸が熱くなって、どうしようもなく泣きたくなって。ズ、と鼻を啜った俺は首に巻いたタオルも解いて彼女の汗を拭った。
「病院、行こうぜ。良い病院知ってんだ」

紗栄子・ソンヒ
「……悪くはないが、良くもないな」「ソンヒのより私の方が合うんじゃない?……いや、でもこっちも……まさか私とソンヒと××でタイプが違うとはねー」ただ上着を借りたかっただけなのに、急にファッション談義になってしまった。ああでもない、こうでもないと言われ、それならばとショッピングモールまで連れていかれると流石に止めるべきかと思ったが、気付けば良い感じの洋服を見繕ってくれていたので断る事も出来なかった。
「ソンヒ、いい仕事したわよね私たち」「ああ、間違いない」「……二人とも楽しそうねえ」「そりゃ勿論!次は何を見る?帽子とか?」「アクセサリーもいいんじゃないか?」「よし、決まりね。××、このあとはアクセサリーを見に行くわよ!」
……うーん、まさか連れまわされることになろうとは。何やらウキウキと楽しげに話す二人に今更行きたくないともいえず、三人でのショッピングはしばらく続いた。