「ねーえお兄さん、一体どこに隠したんです?………って、ありゃ、死んでる。」
ずるずると、ずるずると。腹に傷を負った男を引き摺っての探索中、目的のものが見つからず、引きずる手もなんだか疲れてきたと男に話しかけると、男がぴくりとも動いていないことに気付いた。そういえばいつの間にか抵抗も無くなっていたな。そんなことを思いながら手を離すと、重い頭が床に叩きつけられて、ごとんと鈍い音が響く。
あーあ、最後の生き残りだったのに。カクとジャブラから怒られたらどうしよ。
若干憂鬱になってきたものの、取り合えず目的のものが見つかれば、怒られる事はない筈だ。ひとまず近くにあった、未捜索の部屋に入ると其処は部屋の中央にピアノが置いてあるだけの部屋で、窓辺にあるカーテンの隙間からは光がくさびのように差し込んで、部屋の中に朝を運んでいる。
それがなんだか、今や死体だらけの屋敷の中では浮いているようにも思えて、そんなところに目的のものはないと分かり切っているのに、探索するためだからと言い訳を胸にそろりと近付いて、閉じた鍵盤蓋を持ち上げた。
「……綺麗」
きっとこのピアノの持ち主は、このピアノのことを大切にしていたのだろう。
白と黒の鍵盤はつるつるのぴかぴかで、試しに白い鍵盤を一つ押してみると、白い鍵盤が沈み込むと共に、ぽーんと静かに音が響く。すると、音につられたように他の部屋を漁っていたジャブラが「お、なんだピアノか」と顔を出した。ジャブラは部屋の前にある遺体に気付いたようで「アネッタ…テメェこいつ最後の一人だったのに殺ったな?」と少しばかり叱るようなことを言っていたが、遺体を跨いで中に入ると、ピアノをしげしげと見つめた後、演奏者にしては少々荒れた手を乗せて、いくつかの鍵盤を指で押し込んだ。
部屋の中に、細かな粒のような、透き通った音が響く。それを聞いたジャブラは瞳を細めて、ふっと息を漏らすようにして笑うと「ほー……調律もしっかりしてるじゃねぇか」と知った口で言うので、私は思わず驚いた顔をして「分かるの?」と聞き返してしまった。
「あー…随分と昔、音楽の都に潜入捜査するってんで叩き込まれたんだよ」
「へー……、それ初めて聞いたかも。え、じゃあもしかして弾けたりする?」
「あぁ?まー、んな難しいものじゃなければな」
そう言ってジャブラは背凭れのあるトムソン椅子に腰を下ろすと、それらしく両手を鍵盤に添える。
ジャブラの演奏は、普段の傍若無人さがよく反映された、軽やかで、野山を縦横無尽に駆け回るような自由奔放な演奏だった。あまりの自由奔放さに、彼の演奏がビンクスの酒であると気づいたのは少し後のことだったが、跳ねるように、駆けるように音を奏でるそれは聞いている側も胸が弾むようで、ジャブラは機嫌よく「おら、歌えよ」と持ち掛ける。
「え?ビンクスの酒を?」
「あぁ?おれに弾かせといて自分は客だって?」
いや、確かに弾いてはもらったけれど、サイファーポールともあろうものが海賊の歌を歌ってもいいのだろうか。一瞬言葉に詰まったが、「どうせ此処はもう死体しか無えんだ、別にいいだろ」とジャブラが背を押すので、私はええい、ままよ!とクマドリに教わった魔法の言葉を口に歌を紡いだが、それが存外楽しくて、死体に囲まれた屋敷の中で紡いだ歌はまるで鎮魂歌のように響いた。
やがて音を聞きつけてやってきたカクが「潜入捜査なんだか、過激なピアノショーなんだか分からんのう」と肩を揺らして笑って、場にそぐわぬ楽しい時間は暫く続いた。