悪戯に遊ばれて

 カリファは煙草を吸う。ぷかぷかと、ぷかぷかと。聞けば煙草というものは美味しいものらしく、試しに一本貰って口に咥えて見ると、カリファは「驚くほど似合わないわね」と肩を揺らして笑う。

 似合わないってそりゃあ初めてだもの、仕方ないじゃない。そう言いたかったけれど、ひとまずは火が欲しいと、煙草を咥えたままテーブルに置かれたライターに手を伸ばすと、カリファの手は意地悪をするようにライターを手で覆う。かと思えば蜘蛛が這うように私の手をゆっくりと捕らえると「カリファ?」と問いかける私に顔を寄せた。

 ああ、長い睫毛が近づいてくる。それが妙にドキドキとしてしまい思わず息を飲んだのだが、私の唇に寄せられたのは当然唇ではなく、カリファの唇が挟んだ煙草の先で。熱を持ったそれは私の咥えた乾いた煙草の先にキスをするように触れて、じゅ、と熱を移した。

「んん……びっくりした」
「ふふ、シガーキスって言うのよ。覚えておきなさい、ハニートラップの時に使えるでしょう」
「シガーキスね…」

 どきどきとしてしまった私の心を見抜いてか、カリファが目を細めて笑う。

 くそう。なんだか弄ばれた気分だ。女の私でこうなのだから、きっと男性はもっと簡単に弄ばれて、油断してしまうのだろう。そんなことを思いながら、ゆらゆらと一筋の糸のように流れる紫煙を見つめた私は、目の前でゆっくりと吸って、それから息を吐き出すように煙を吐き出すカリファに倣って、煙草を吸って――――、

「ぅ、え…っげほっげほげほっ!!」

 思い切りむせた。びっくりするほどむせた。
 苦しくて、苦しくて。涙が出るぐらいむせていると、騒ぎを聞きつけたカクがやってきて、指に煙草を挟んだまま死ぬほどむせている私を見て「カリファ!こいつに煙草を教えるんじゃない!」と叱りつけるようにいいながら煙草を取り上げた。

「げほっげほげほ…っひっ、…ごほ…っげほげほっ!」
「なんで煙草なんか……、一体何をしとるんじゃ…」

 呆れるように言いながら、煙草を床に落としたカクの白い靴がぐりぐりとそれを踏みつぶす。ああ、なんてことを。そう思うもやっぱり苦しくて、咳が止まらずに背中を摩られるなか何度目かの大きな咳をした瞬間、ずるんっ!と無意識に竜の尻尾が伸びて、硬い岩を張り付けたような尻尾は背中を摩るカクの腹を思い切り突いて「ぐえっ」と蛙のような音と共に、カクが後ろに倒れた。

「わーー!!カク!!!!!??!??」

 そんな私の悲鳴じみた声が響く中、カリファだけが「あら、アネッタに煙草は無理そうね」と呑気に笑っていた。