なんだかんだ愛されている彼女

「終わっ……たー---!!!」

 時刻は深夜2時頃。夜の帳も降りて街は寝静まったようにしんと静まり返る中、ひときわ大きな声が町の静寂を一瞬だけ打ち破る。声を上げたのは三日三晩寝ずに仕事詰めになっていた幼馴染のアネッタだ。
 三日三晩寝ずに仕事をした影響で整えられていない髪はぼさぼさで、この間買ったんだと嬉しそうに見せびらかしていた服は、数年き続けているのかと思うほどよれよれになっている。目の下にクマを作り、不健康そうな顔でルッチに資料の束を渡すと、ルッチはそれを無言で眺めたのちに労いの言葉を一つかけて、隣に立つブルーノに手渡した。

「ご苦労。ブルーノ、これを届けてこい」
「あぁ。」

 ブルーノは「よく頑張った」と肩を叩いたが、すぐにドアドアの実を使って報告書を届けにいってしまった。いや、よく頑張ったからこそブルーノも明日に回さずに、いま届けにいったのだろう。
となればわしがすることは、眠気やら疲れやらでふらふらとしているアネッタを寝かす事だろう。とりあえず座っていた四人掛けのソファにクッションと、それから敷物を敷いてやれば、アネッタに声をかける。

「アネッタ!こっちじゃ、こっちで少し仮眠をとると良いぞ」

 しかし、予想にも反してアネッタは限界だったらしい。すでに頭がろくに働いていない状態だったのか、いや、ルッチのご苦労という言葉を聞いて仕事は終わったのだと脳みその動きを止めたのか、そのあたりは定かではないが、とにかくアネッタはよたよたと、まるで老人みたいな足取りでわしの前にやってくると、そのままわしの体に倒れこむようにして抱きついてきた。

 全身の体が抜けているアネッタを受け止めたわしは、そのまま体制を崩して背後にあるソファに座る形で尻をついたが、アネッタといえばわしの肩口に頭を預けてすうすうと寝息を立てている。

「おーおー、お熱いねぇ」

 ジャブラが普段よりも声の音量を抑えながら茶化してくる。おそらくはアネッタを起こさないための配慮なのだろう。

「おれも寝るわ、こいつの顔見てたら眠くなってきた。」

 くあと欠伸をしながら立ち上がったジャブラは、ソファへと近づいてアネッタの寝顔をじっと見つめたかと思うと、上着を脱いで乱暴にアネッタの上に置いた。

「風邪、ひかれても困んだろ。」
「チャパパパー、ジャブラは素直じゃないなー。」
「うるせぇよ」

 ふんと鼻を鳴らしそっぽむくジャブラを見て、フクロウは何やら笑って、それからわしの膝の上で眠るアネッタを見たフクロウは、「チャパパー、お疲れだぞー」といって一度だけ頭を撫でた。そこに「あ、よよい!これにてェ~」といつもの調子で声を大にするクマドリが自分も労いの言葉をと前にやってきたが、それもジャブラが「うるせえよ」と声を抑えながら一蹴し、やがて三人は自室へと戻っていった。
 残されたのはカリファとルッチ。カリファはソファの腕置きに腰を下ろしては、一度も目覚める様子もないアネッタを見て少しばかり目元を緩めながら笑う。

「ふふ、明日は私が洗ってあげるわ」

 ぼさぼさの髪とは対照的にきれいに整えられているカリファの髪をみるあたり、明日はつるつるになっているかもしれんな、そんなどうでもよいことを考えていると珍しくも最後まで残っていたルッチが体を起こして、廊下につながる扉のほうへと足を進めた。

「カク、明日の任務だがお前は休め。代わりにジャブラを連れていく」

 恐らく、三日三晩頑張ったアネッタへのご褒美ということじゃろう。確かに最近わしと休みが被らないとぼやいておったが、それにしたってアネッタに対して随分と甘いものだと思う。
まぁ、一日アネッタとゆっくりできるのだから、態々火種になることを口には出さないが。

「すまんのぅ」

 わしは火種になるような言葉をぜーんぶ弾いて、安牌の言葉を返すとルッチは出ていって、カリファも「ちゃんと部屋で寝かせてあげなさい」とだけいって部屋を後にした。さて、残るはわしとアネッタだけ。しかし、アネッタは起きる様子なんて微塵もなくもぞりと身動ぎをするだけで、すうすうと寝息を立てている。

「んん………、カク…」

 実に愛らしい声でわしの名前を零すアネッタ。

「……このまま寝たら明日どんな反応をするんじゃろうなァ…」

 眠るその顔がまた可愛らしくて、眠りに入ったことでじんわりと温かくなるアネッタの体温を感じながら、わしは肩口に預けられたアネッタの頭に頬を寄せて、もうしばらく彼女の犯した間違いを堪能するのだ。