あの子が怪しい仕事を引き受けるそうで

ピュール
「……ボクは反対です、こんな仕事をやるためにMZ団に入ったわけじゃないでしょう」
見るからに怪しげな求人。男は口八丁でそれらしいことを言っているものの、話がうますぎる。怪しくないという割に説明は全て××に向いており、明らかにだます気満々ではないか。ピュールは顔を顰めて苦言を呈す。それでも「でも、これだけのお金があったらサビ組お金を返すことだってできるんだよ」と続けるのは、恐らく早くに今ある問題を解決したいということだろう。それに付け込んで時給アップの話を差し込む男を睨んだピュールは、「結構です」の一言ではっきりと拒否をして××の手を引いて歩き出した。
「……確かにお金の問題はありますが、それでキミが傷ついたり、嫌な思いをして稼ぐものではないと思うんです。……ボクらは頼りなくてもMZ団というチームだ」「一緒にどうすべきか、考えましょう」
その言葉は重くも前向きで。表通りに出たピュールは燦々とした陽の光を受けながら、少し気恥ずかしそうに笑った。

カラスバ
「へぇ、随分とおもろい商売してはるんやね。ただ荷物を運ぶだけで一日十万円……リスクも無しにようさん稼げる仕組みがあるなんて羨ましい限りやね。……ぜひオレもその仕事とやらをご教示いただきたいわ」
全く、いったいその荷物の中には何が入っているのやら。マルチ商法か違法売買の類か。何にせよ明らかに普通ではないその仕事に、懇々と相手を詰めるカラスバ。その声色は静かで顔には笑みさえあるものの、懇々と詰める様子に初めは丁寧に説明を返していた相手も、たじろいで笑みを引きつらせている。その姿を彼が見落とす筈もなく、目敏く相手の機微を捉えた彼はサビ組の名刺を差し出した。
「名前や顔は覚えたさかい、また面白い話があったら聞かせてもらおか。ほな、よろしゅうね」
さて、これにて勧誘活動はおしまいに。しかし”こちら”への説教はこれからのようだ。逃げるように立ち去る男から視線を外したカラスバさんは、息を吐きだした。
「あないな怪しい商売を聞いてバイトをしよう思ったん?」「普通アレには手え出さんやろ、荷物運ぶだけで十万なんてどこからどうみても違法やん」「……なんぼポケモンバトルが強くても、まだまだ手ぇかかる子供やね」
な、なにもそこまで言わなくたって……!先ほどまでの詰めが今度は此方に向けられる。しかし言い返そうにもそのような隙はなく、思わずウウウと唸ってしまったが、彼の真意はそこにはなかった。「……金に困っとるんなら、俺が頼んどる奴だけしとき。なんやもう一気に心配になってもうたわ」その言葉は呆れというよりも──。彼の顔を見て思わず言葉を詰まらせると、彼はポンと頭に手を置いて「ええ子やから、大人の話はちゃんと聞いとき」そう呟いた。


ジプソ
「……この案件はおすすめしません、ええ、馬鹿げた仕事ですから」
うちでお渡しする案件の方がよほど稼ぐ事が出来るのでは?彼女が差し出した紙を受け取った後、グシャリと握りつぶしたジプソの声は低い。「こんなものに応募するほど、貴女やMZ団は困窮しているのですか」「彼の一件についても、そう無理な取り立てはしていないはずですが」単なる問いかけと、状況を探る一言。その眼差しは嘘を許さず、「正直困窮するほどではないんですけど、すこしお小遣いがほしくて」そう呟くと、彼は腕を組んで少しだけの沈黙を向けた。
「……であれば、ワタクシがいくつかの仕事を依頼をしても良いですか。勿論、こちらに書いてあった金額は出させてもらいます」そう提案を向けた後「貴方はそうでもしないと、ひとりで危ない橋を渡りそうですから」と小さく息を零した。

ユカリ
「まぁ!今時こんな仕事内容があるだなんて……××様、それをお受けになるくらいなら我がミアレソシアルバトルクラブでお仕事をお受けになってくれませんか?」
流石はミアレソシアルバトルクラブの代表。興味本位で想定賃金を訊ねても、相手が提示してきた金額よりも遥かに高いものを提案してきた。その金額はおよそ二十万円。二倍の価格だ。……ただ、流石に高すぎるような。隣で聞いていた怪しげな男も、露骨にドン引いている。「うーん、でもそれは高すぎるし……こっちのほうが手軽そうだし。何よりこれにかこつけてバトルさせてきそうだし」申し訳なさ半分、本音半分。彼女の性格を考えると、あり得そうなのが怖い。呟くと、彼女は「ああん、バレてしまいましたわ!あなたと私だけのスーパーユカリトーナメントを開こうと思ってましたのに!」そう言いながら腕を絡めると「それじゃあ、ユカリと二人っきりのお泊りでも構いませんわ」とにこやかに笑った。……どうやらもう逃げられないらしい。