グリーズ
「ああ、××!今日は飲んでいかないのかい?……って、なんだ前髪なんか隠して」
ヘアサロンに行こうにも前髪だけをお願いするのは恥ずかしい──そんな考えで鋏を握ったことが間違いだった。気付けば前髪は普段よりも短く、視界が開けている。……完全に前髪を切りすぎた。用事があって外へ出ようにも前髪が気になって、手で押さえながらヌーヴォカフェの前を通ると、グリーズから声を掛けられてしまった。
訝し気な表情と覗き込むような動作。手で押さえたまま事情を話すと、「見せなよ」とグリーズが手首を掴んで──そして短くなった前髪をマジマジと眺めた。
「うう……変じゃない……?」「まぁ確かにいつもよりは短い気がするけど……いいんじゃないか、よく似合ってるよ」
隠してるからもっと酷いのかと思った。その声色は僅かに悪戯めいており、手首にあった手が離れると、彼女は笑い「あたしは可愛いとおもうぜ」と呟いた。
ガイ
「ははっ、思い切ったんだな。でも可愛いと思うぜ」
笑いはしたが、小馬鹿にしたというよりは──。慈しむ瞳は窓辺から差し込む陽射しを受けて輝いて見える。そっと切りすぎたと訴える前髪を掬って、ガイはそこへ口付ける。
「オレは好きだよ、この髪型」
なんともキザったらしい行動なのに、私を見つめるその瞳は真っ直ぐだ。それにその眼差しには先にあった慈しむような色が残り続けており、私は思わず顔を逸らした。
ピュール
「前髪……を切りすぎた。……キミの瞳が良く見えて良いと思いますが」
訝し気にしたあとの、小さな言葉。真っ直ぐな誉め言葉なんて珍しい──そう思ったものの、どうやら思った言葉がつい出てしまっただけらしい。そのあとは長い沈黙が続いて、視線の先にいるピュールの顔が赤くなる。褐色の肌でその赤の色は少しわかりにくいが、よく見える耳は確かに赤い。
それがなんだか物珍しいような気がして見つめ続けていると、彼はスイと視線を逸らした。
「……。…………なんですか、キミが感想を聞いたんでしょう」
マチエール
「へぇ……××、あたしはいいと思うけど。だって、××はどの髪型でも似合うもの」
普段と変わらず愛想のよい笑みと、口説き文句と勘違いするようなその言葉。「も、もう……マチエールさんったら誉め上手なんだから」耳が熱くなり、お腹の奥がこそばゆい。真っ直ぐに見つめる瞳を避けて視線を逸らすと、彼女はクスリと笑って此方へと手を伸ばし、耳元を指先でツイと撫でた。
「……心外だなぁ、こういうことは××しかいわないのに」