ヒカル
「いやぁ、本当にいつも手伝ってくれてありがとうね。やばい家にまーた倫理観がイカれてるのがきたと思っていたけど、まさかこんなにアシスタントスキルがあるなんて……」
半ば強引に影森家に拾われて数日。アサと同じくこの屋敷に居るよう命じられた私はお小遣いでアシスタントに誘われたわけだが……まさか、デジタルで絵を描く事になろうとは。波久礼先生の気さくな笑みがなんだかこそばゆい。
「えへへ……お世辞でも嬉しいです。私、先生の漫画だいすきだったので」「いやいやいや、お世辞なんかじゃないし、むしろ俺の作品を読んでくれてるなんて嬉しいよ!」
謙遜に次ぐ謙遜。──というよりも、これが彼の本音なのだろうか。波久礼先生といえば今や売れっ子の漫画家先生なのに。指定された場所に背景を描きながらチラリと先生を見つめると、彼は手を止めて笑った。
「一生平和に幸せなマンガを描いていきたいって思ってるんだけどさ、君がこうして俺の隣でアシスタントをしてくれたら……その夢が叶う日も近いんじゃないかって、思っちゃうんだよね」
アスマ
「……おや、気付かぬようにと配慮したつもりでしたが。いやに察しがいいですね」
夜の帳が降りた、静かな夜。塾帰りの私を提灯一つで迎えたアサヒさんは、肩に留まった蛾を見て少し意外そうな顔をしていた。
なんて白々しいんだろう。これを仕込んだのは彼だろうに。
アサヒさんの傍で羽を揺らす蛾も、肩に留まった蛾と同じ個体だろう。アサヒさんが提灯を手にしたまま腕を伸ばすと、肩に留まった蛾がそちらへと飛んでいく。……やっぱり同じ個体だ。金烏玉兎の一部とはいえ、ただ塾に行くだけでどうして此処まで過保護になれるのだろう。
「アサヒさん、私ってそんなに信用ない?」
──尋ねると、彼は一つの間を置いてニコリと胡散臭い顔で笑った。
「いいえ、信頼していますよ。ですが、だからこそあなたには私の監視化にいてもらいたい。この世はあなたが思っているよりも、物騒で、──あくどい人が多いですから」
ジン
「遅くなるのなら、事前に連絡をしていただきたい。戸籍がない状況でトラブルに巻き込まれておやっさんに怒られるのは私ですから」
戸籍がない状態で徘徊するなと言われても、私はこれまで通りの生活をしていただけ。そこでとやかく言われるのは自由が無いと思うのだが、「おまえはおやっさんに怒られなさい」と言われるハルオとは違って責任を被ってくれるあたり、甘やかされてはいるのだろうか。
「ねぇ、私がこの屋敷を抜け出していろんな人から連絡があったの」「そうでしょうね、ガブちゃんさんも怒ってましたよ」「じゃあ……ジンさんも心配だった?」「……心配してなきゃ、あんなに連絡してないでしょう」「あは、そうだった」「──誠くん、男たちの身分が分かるものを出してください」
げろげろげろ。汚い音と共に吐き出された携帯に財布、身分証明書。一体あれを使ってなにをするのだろう。そして、あれがあるということは、男たちは愛ちゃんに──?
いや、考えるのはよしておこう。
「あんまり怖い事しないでね、ジンさん」「ええ、良い子が眠る前ですから」「うーん、真面目」