「………39.3は高すぎるのう」
「…いや、どうして学校サボってんの」
平日の昼下がり。彼女の部屋で甲斐甲斐しく看病をするわしに向けて、〇〇はどこか呆れを滲ませながら小さく零す。冷蔵庫の奥にあった冷えピタを一枚、ぺりぺりと音を立てながらフィルムを剥がすと〇〇は「それ冷たいからやだぁ」なんて甘えたことを言ってきたが、それを問答無用で額に張り付けては「今日は先生たちが全員外出すると聞いてしまってのう、〇〇を残すわけにはいかんとわしも休んでしもうた」と笑う。
「……別に学校行っていいのに。」
「その間に倒れてしまったらどうするんじゃ。」
「過保護ねぇ。」
「そりゃあ過保護にもなるわい。」
別に〇〇が休むたびにこうやって休んでいるわけではない。ただ、この養護施設を管理している先生が不在の中、高熱を出した病人を一人残すのが心配だっただけだ。彼女の首の後ろに手を差し込み、少しだけ頭を持ち上げて枕との隙間に氷嚢をセットしてやると、彼女は多少心地よさそうに目を細めたが、やはり熱が高すぎるのか、先ほどまで喋っていた筈の〇〇の瞳がどこか虚ろに変わる。
「…〇〇、きついか。」
「……ん。」
小さく零された言葉に覇気は無く、汗で張り付いた彼女の前髪を掬って横に流してやれば、彼女は少しだけ目元を和らげて「そういえば、それ、小さかった頃にも熱を出すとそうしてくれたよね。」と力なく笑いながら零した。
彼女は小さい頃から一年に一度だけれど高熱を出すことがあった。当時は熱が高く意識を手放すことも多かった彼女が死んでしまわないか不安で、その不安をかき消すためにやっていたおまじないだが、それは彼女の中に残り続けていたらしい。彼女は「んふふ」と小さく笑っては「それねぇ……結構好きだったんだ」と零すので、手の中に残ったままだった冷えピタのフィルムをゴミ箱に放りながら「…そうなのか?」と問いかける。
「…病気の時は、特別寂しくなるでしょう?……だから、…カクが触ってくれると、一人じゃないんだなぁって凄く安心するから、好き。」
「……そりゃあよかったわい。セクハラと言われても困るしのう。」
「ふふ、カク相手に言うわけないじゃない。」
全く酷い女だろう。好意を抱いている男に対して全く脈が無いような、恋愛対象とすら見ていないような事を言うのだから。
此方が無遠慮に手を伸ばしても彼女は警戒を1mmも見せずに、己の頬を撫でる手のひらを受けて金色の瞳を細めて「頭痛いし体調は最悪だけど、こうやって甘やかして貰えるから体調不良も悪いものばっかりじゃないねぇ」と白い歯を見せて悪戯に笑うので、わしはベッドに手をついて身を寄せるとそのまま彼女に額へとキスを贈る。それは子供の頃と似たそれだが、それだけではいつもと変わらない。そのまま彼女の目尻にもキスを贈ると、彼女は「んふ」と存外嬉しそうな表情を浮かべたが、きっと何もわかっちゃいないのだろう。
わしの苦悩はまだまだ続きそうだが、今日は病人のご要望通りとびきり甘やかしてやろうと思う。