左こめかみ付近に生える三本連なった角に、爬虫類のような縦長の瞳孔、明るい小麦色の髪。これだけ目立つ容姿をしているというのに、〇〇はどんな潜入捜査であろうとも、すぐに役を演じてターゲットと打ち解ける。それが天性の才能だとはCP内でもよく言われたもので、今もメイドに扮した彼女は潜入捜査初日にして、メイドたちと一緒に楽しそうに話し込んでいる。
彼女が笑うと、他のメイドたちもつられるように笑う。そうすると、彼女たちのいる場だけふんわりと空気が柔らかくなったような気がして、まるで陽だまりのような奴だと、そう思った。
その姿を見ながら、彼女よりも数か月ほど早くこの屋敷へやってきたわしは、書類を手に廊下を歩む。話に華を咲かせる彼女たちの前を通ると、〇〇がわしに気付いて「カクさんお疲れ様です。」と柔らかな笑みを携えて頭を下げる。
「あぁ、お疲れさん」
彼女と会うのは約三か月ぶりだ。色々と話したかったが、ぐっと堪えて笑みと一緒に簡素な言葉を返すと、後に続くよう他のメイドたちも頭を下げた。他のメイドたちへは頭を下げるに留めて早々にその場を離れると、小さな声で「ねぇ、〇〇はあの人どう思う?」という小さな問いかけが耳に入った。
ははあ、愚問じゃな。そんなの比べるまでもなくわしに決まっておるじゃろうに。そう思ったのに〇〇は「うーん、私は庭師のハインネスさんがいいかも。あの筋肉隆々な感じがいいよね。」とあっさり言うものだから、わしは歩きながら何もないところで躓いてしまうのであった。
そうして時刻が深夜一時を指した頃。報告業務のために部屋を抜け出したわしらは狭い倉庫で落ち合った。〇〇は初日にしては随分と面白い情報を入手しており、わしの手元にある情報に繋がるものも多く、この調子ならばこの屋敷を抜け出すのも近いかもしれない。そう思ったところで〇〇は「それじゃあ報告も終わったことだし部屋に戻るね。」と三カ月ぶりの再会にも関わらずドライに零すので、また明日と緩く掲げた細い手首を掴んだ。
「うん?どうしたの?」
〇〇が問いかける。窓から差し込んだ月の光に照らされた瞳が、きらりと金色に輝く。そういえば、こうやって間近で顔を見つめるのも久しぶりだ。そう思うと、急に彼女を手放すのが惜しくなってしまい、己の方へと引き寄せると彼女の胸板にぼすんと顔を埋めた。それからすう、と思い切り鼻から息を吸い込む。猫吸いならぬ〇〇吸いだ。
「あはは、甘えん坊だ」
一旦手を離して、代わりに彼女が逃げられないようがっちりと腰には腕を回して、さらには〇〇吸いまでしているというのに、〇〇は特に嫌がる素振りも見せずにのんびりと笑う。彼女の細い指がわしの髪を撫でる、それがまた妙に心地よくて彼女の胸に顔を埋めたまま目を緩めたわしは、「わしよりも、庭師の方がいいのか」と小さく問いかける。
まるで子供じみた問いかけだ。
「え?」
それみろ、〇〇も驚いているじゃないか。
「……メイドたちと話しておったじゃろう」
「ああ、…あれ、……ふふっ、地獄耳ねぇ」
「……本当にあの庭師の方がいいのか」
「どう思う?」
「……質問をしとるのはわしの方じゃが」
〇〇は瞳を細めてくすくすと笑って「なあに、やきもち?」と零す。
しかし、わしの方から言葉が返ってこなくなると、〇〇は少しばかり間を置いたのちわしの頭を優しく撫でながら、「カクのことどう思うって言ってきた人ね、カクのことが好きなのよ。」と零した。
「え?」
「んふ、気付かなかったでしょ。……あの人は私を本当に仲間に入れるか入れないかを試すために聞いてきたみたいでさ、だったらあそこでカクって言うわけにもいかないじゃない?だから、庭師さんの名前を出しただけなんだけど……、……ふふ、まさかそんなに気にしてるなんて」
〇〇は説明を加えながら、また、くすくすと穏やかに笑う。
笑われるのは癪ではあるが、それでも彼女の意識が外を向いたわけじゃないと分かると、心の中のもやつきは晴れるもので、わしは猫のようにぐりぐりと頭を摺り寄せながら「……気にせんわけがないじゃろう」と小さく零したが、その言葉は彼女の耳に届かなかったようで「もー、甘えん坊だなぁ」と呑気に笑っていた。