誕生日

よりにもよって、よりにもよって今日。

恋人の誕生日に任務をねじ込まなくたっていいじゃろうに。

「なんかアイツ機嫌悪いな。」
「ほら、今日はアネッタの誕生日でしょ。」
「あー、なのに任務に駆り出されてイライラしてんのか。」

遠くで仲間たちの声が聞こえる。そりゃあそうだろう。一年のうちで一番特別視している日に借り出されたのだから。時刻は深夜二時過ぎ。出来れば0時きっかりにお祝いの言葉を言ってあげたかったのだが、それも敵わず、せめて早く帰ろうとまだ血も乾かぬうちに任務も終わらせて部屋へと戻ると、彼女は先に寝てしまったようで、大きなベッドにただ一人、体を丸めてすうすうと眠っている。

「……すまんのう」

ぼすんとベッドに座ってから眠る彼女の頭を撫でると、眠る彼女はにまーと頬を緩める。それが可愛くない筈もなく、先程人を殺してきたと言うのに、わしの心はじんわりと温まっていくのだ。ああ、許された依存の心地よさといったら。

眠る彼女を起こさぬよう、静かにサイドテーブルの引き出しを開けると、今日この日のために用意したものを取り出して、眠る彼女を見つめた。
さて彼女が起きたとき、どんな反応をするのだろう。
左手の薬指に通したそれを見て、つい口元を綻ばせてしまった。


早朝、まだ小鳥たちも羽を休めて眠るなか、自然と目を覚ました私は身を起こして、欠伸を零す。ううん、よく寝たような気がする。瞼を擦りながら窓辺へと視線を向けるとまだ外は薄暗く、天井に両手を突き上げて両腕が抜けるほど伸びをすれば、多少目が覚めて意識がはっきりとした気がする。

ふと視線をずらすと、寝るときにはいなかった栗色の髪をした青年が私の隣で小さな寝息を立てながら静かに眠っており、なんとなしに頭に触れるとむにゃむにゃと口元を動かして頭を私の腰にぐりぐりと押し付けた。まるで猫のようだ。

「……ふふ、……可愛い奴め」

普段は早起きする彼がいまだ眠っているということは、恐らく昨日の任務は夜遅くまで続いたということなのだろう。大きめのブランケットを手繰り寄せて、彼の肩までかけてやると彼は温もりを堪能するようにその大きな体を猫のように丸めて表情を緩めた。
きっと幸せだという感情は、今、このような状況を言うのだろう。手を伸ばして手の甲で彼の頬を撫でると、もぞもぞと動く彼が愛おしい。
そうして暫く眺めていると、太陽は静かに音もなく登りカーテンの隙間から光がくさびのように差し込んで、カクの顔を容赦なく照らす。カクは眩しいと不機嫌そうに呻くので、その光を遮るように彼の顔の上に手のひらをやって簡易屋根としてやれば、差し込んだ光は私の手の甲を撫で、次にわたしの薬指を主張するように照らすので、私は思わず目を見開いた。

「…………は、え?」

薬指に、見覚えのない指輪が嵌っていた。ゴールドの指輪は宝石がなく飾り気のないものだが、朝陽をうけて煌めくそれは何よりも、きっと世界のどのお宝よりも綺麗で、私は指輪とカクを交互に見て呆然とすることしか出来なかった。