「カク!一本借りるよ!」
「な、ァ…ッ?!」
戦闘中。此方がいくら有利に動けていたとしても、武器を借りるといって奪っていくのはいかがなものだろうか。とはいえ、それだけ彼女も押されているということだろう。隙をついて奪い取った刀で、恰幅の良い男が振り下ろした刀を受け止めた彼女は、口角を吊り上げながらも眉間に皺を寄せている。上から振り下ろされた力は強く、体格差でいったら圧倒的に〇〇が不利だが、力自慢ならうちの〇〇も負けちゃいない。
〇〇はこの状況にも愉悦を滲ませた瞳をぎらりと光らせると「ああああッ!」と声を上げながら力任せに押し返し、後ろにのけぞった男の胸元に刀を手に入り込むと、そのままどすんと胸元へと突き刺した。突き刺された男は一瞬抵抗を見せようと、胸元に刀を差したままの状態で拳を振り上げたが〇〇は突き刺した刀の柄を持ったまま、ドアノブに刺した鍵を捻るように縦から横に手を捻って傷口を抉ると、男は抵抗も出来ずにそのまま体を後ろに倒した。
それから倒れた男相手に対して、念のためとばかりにぐちぐちと傷口を広げて風穴開く様子は、何とも人道外れた惨いもので、わしが相手をしておった女が顔を真っ赤にし、髪を逆立てながら「きさ、まァァァァァ!」と吠えた。
その言葉にびくりと肩を弾ませた〇〇は、一つ一つの行動が女を煽っているというのに、知ってか知らでか男の胸元を踏んづけて突き刺した刀を抜いては、刃先で男の体をつうっとなぞりながら「ねぇ、カク、その人なんで怒ってんの?」と問いかけた。
「さぁの~」
適当に言葉を返すと益々女の顔は険しくなったが、〇〇はそんなこと知ったことではないとばかりに視線を瀕死状態の男へと戻しては、心臓の丁度真上で動きを止めた刀を軽く押し当て、「おやすみ」とだけいって躊躇なく心臓を突き刺した。
突き刺した瞬間、男の体は大きく跳ねたが、〇〇は怯む事無く金色の瞳を細めて絶命するまでを見届けると刀を抜いて吐息を落とした。
「よっし、私の方は終了~~!」
わーいなんてどこまでもマイペースに零す〇〇。それとは対照的に、わしが相手をしている女といえば目を吊り上げて男の名を絶叫するだけで、わしを倒す気概も見せてくれないので何ともつまらない。振り下ろした刀を、片手に持った刀で弾いてお返しがてらがら空きの体に向けて嵐脚をお見舞いすれば、女は声もなく遠くの方で体を倒して、動かなくなってしまった。ああ、本当につまらない女だ。
「今時飛ぶ斬撃なんて珍しいもんでもないじゃろうに」
言いながら足元に落とした鞘を二つ取って、駆け寄ってきた〇〇に片方を渡そうと差し出したが、〇〇はそれを受け取らずにギラリと瞳孔を開くと、わしの腹を足で押してそのまま背後に倒すと、直後飛んできた斬撃を刀で受け止めて上空に弾いた。
「……はー……びっくりした。…死に際の一撃だったのかな。」
わしの真上で驚きを滲ませながら呟く〇〇。助けてもらったのは有難いのだが、正直――。
「………パンツ見えとるぞ」
「あれ?」
ラッキースケベどころじゃないモロ見えのそれを指摘すると、〇〇は「ラッキースケベってことで。良かったね、カク少年!」なんて笑い飛ばしながら女のいた方向を見て安全性を確かめると、跨いだままだったわしから離れて隣にしゃがんでは、膝の上に肘をついて、にんまりと笑みを浮かべた。
「いや~、カク君に一個貸しを作っちゃったなぁ~。」
それがあんまりにも誇らしげな表情だったので、わしは彼女をじとりと見ては身を起こしながら「わしの刀を貸したことでプラマイゼロじゃろ。」とばっさり切り捨てると、案の定〇〇は「うっ。」と言葉を詰まらせる。相変わらず口論には弱いようで、唇を尖らせた彼女は「でもさぁ命の恩人に何か奢ってくれてもよくない?」と首を傾げた。
「それを言うなら刀を貸したわしも命の恩人じゃから何か奢ってもらわんとなぁ。」
「えぇー、なにそれただの交換会じゃん。」
「わしはバナナオレが良いのう。」
「あ、じゃあ私、いつも行ってるカフェのパフェがいいなー。」
「それバナナオレ二杯分じゃろ。遠慮というものをしらんのかお前は。」
そんな他愛のない話をしながらも暫く体を休めていたわしらは、任務状況を問いかける電電虫の音で会話を取りやめて報告を行うと、最後に死体の状況確認だけ行ってその場を後に、他愛の話をしながらいつもの場所へと向かった。