ウワァ!!もう無理!!!!(OP)

■🐧ペンギン
 ここのところ妙に立て込んでいるせいか、徹夜が続いて疲弊している××が「もう無理!」と机に突っ伏してワアワアと喚く。――あ、これマジな奴だと思ったのは数秒後の事。なんというか体力に限界が来たと言うよりも心に限界が来たのだと思う。前回はたしかベポのフリーハグでなんとか事なきを得たのだと思うが、頼りのベポも仮眠休憩でおらず、この場にいるのはおれ一人だけ。

 仕方ない、きょうは兄ちゃんがなんとかしてやりますか。

「あー……っと、…××?ちょっと顔あげてみ」

 用意したるは炭酸水と、氷と、少しの果実。最近購入したばかりのベリーは日持ちさせるために凍らせており、一つを彼女の唇に押し付けると口に含んだ××が咀嚼を繰り返す。その間に、何の柄も入っていないグラスには氷と凍らせたベリーをガラガラと雑に入れ、頭を垂らす××の名前を呼ぶことで袖を引くと、意識がグラスへと向いたタイミングで炭酸水を流しいれた。

「わあ……」

 炭酸水が底を叩き、気泡がベリーを押し上げて色を乗せながら混ざり合っていく。それはさながら魔法のようで、ペンギンは流石に子供だましすぎたかとヒヤヒヤしていたが彼女の反応は中々のようだったと思う。……さっきまではあれだけワアワア言っていたくせに、目をキラキラさせちゃって。その微笑ましさに頬が緩むのは兄貴分なんだから仕方ない。ペンギンはそう自分に言い聞かせながらストローを指して彼女に差し出すと、ついでに頭を撫でながら「今日もお疲れさん」と一言労った。

■OP💌弟
 彼女は疲れを漏らさない。そのため人々は「あの子は愚痴も漏らさず良い子よね」評して語るが、その結果がこれだ。……全く要領が悪い。疲れているのなら、休みたいのなら弱音を吐くなり手伝ってと言えばいいのに。
 劣悪な環境でもない場所で、無意識に首を絞める××。これが劣悪で誰もが助けてくれないような環境であれば理解も出来る。しかし周りに居る人々は助けを求めても喜んで手を貸してくれる筈だし、何よりおれだって手を貸すことくらいは出来る。
 早く、自分で首を絞めていることに気付けばよいのだが。

「もっと頼ってくれたっていいと思うんだけどなぁ……」

 実家から持ってきた冬の寒さで甘くなったキャベツやアスパラガス、それからベーコンを適当に切って炒める。オリーブオイルと塩で味を整えたあとにはたっぷりのお湯で湯がいたパスタを入れて、空気を含ませるようにしてかき混ぜると溢れた匂いが部屋中に広がって、おれは火を止めて二人分のパスタを白皿に移しながら言った。

「ま、食うもんくって、あとはゆーっくり風呂でも入ろうぜ」

 おれ特製パスタ、結構評判いいんだぜ。そういってにかりと笑っても、彼女はいまだ元気が出ずに力無く笑ったが、沈黙状態にしてやるものか。おれはいつも通りを演じて語らい続け、味の良いパスタを頬張った。

■OP💌兄①
「どうしてそんなに無理をしたんだ……」

 お前は無理をしすぎだ。疲労感があまりに強すぎて倒れこんだその日、仕事買えりに立ち寄った幼馴染は母親みたいな事を言う。手際よく海軍コートを椅子に掛け、鞄を下ろす。それから近寄って「何か食えるか」と尋ねる言葉は甘い……というよりも、やっぱり呆れ混じりだ。取り敢えず、少しなら食べられそうだと言うと「そうか」とだけ言ってキッチンへと向かう兄。冷蔵庫開けるぞと断りを入れてから開ける様子に、弟とはやっぱり真逆だと思いながらも「何もないじゃないか」と言う口煩さにウウと呻いた。

「仕方ないじゃない……ここ最近疲れてたんだから」
「仕方なくない。……というか、まさか最近は何も食べてなかったのか?」
「え?あー……うーん……」
「……そうやって、一人で抱え込むところは昔から変わらないな」

 遠くで聞こえる溜息。それでもいま有るものを使うしかないと冷蔵庫を漁る彼は、キッチンで忙しなく動く。
まずは冷蔵庫近くにあった米袋から、少量の残った米を鍋に。量の少ないそれを一粒も落とさないよう水で丁寧に洗い、水を少量いれて火にかける。量が少ないので沸騰して炊きあがるまでにそう時間はかからないが、今回は沸騰して終わりではない。
 炊きあがった米に牛乳とバターを入れてかき混ぜる。途中木べらで持ち上げて味見をしながら塩で調整してみたが、大人用ならば黒コショウでもかけるべきだろうか。……いや、まぁ、そんな気の利いたもの、この疲れ切った家には無いのだけれど。

「ほら、出来たぞ」

 そうして出来上がった昔なつかしのミルク粥。彼女は器に盛られたそれを見て、「あったかい夕食だぁ……」と感動していたけれど、飯くらいはまじで自分で取ってくれ。頼むから。
 そうは思いながらも、結局彼女に手を貸してしまうのだから、「兄貴は××に甘いよな~」と言っていた弟には文句も言えそうにない。

■OP💌兄②
「どうせ、何も食べてないんだろ」

 半ば強引に押し掛けた幼馴染の家。相変わらず彼女の家にある冷蔵庫は空っぽで、「買い物に行くんじゃなかったのか」と指摘をすると、露骨に視線を逸らされる。……まぁ、押し掛けた以上は、この空っぽである状況が好都合でもあるのだが、それでも来てよかったと安堵する。
 断りを入れてキッチンへと立ち、小脇に抱えて持ってきた鍋を置いて蓋を取る。炊きあがったあとすぐにタオルで包んだ甲斐もあって、中にある鍋いっぱいの米は温かい。一粒一粒艶のあるそれは、さいきん親父が新しく仕入れているという地産品らしい。香りも良く、なんだか自分までお腹がすいてきた。

「なんで鍋ごと……」

 後ろで突っ込まれながらも、手を綺麗に洗い、手のひらに塩を振るう。それから「よし!」と大げさに気合を入れて炊き立ての米を握ってみるものの、炊き立ての米というのは熱した鉄のように熱い。……どうしてばあちゃんやおふくろは平気な顔で握れるんだ。せっかく出来た握り飯も、歪な上に拳骨大で、華奢な彼女には大きすぎたか…?と眺めていると、××がひとつ手に取って大きいねと笑った。

「悪い、もう少しうまく握れると思ったんだが……」
「ううん。誰かが握ってくれたおにぎりなんて、何年振りだろう」

 大きく頬張ったあと、彼女の瞳が潤んで揺らぐ。美味しいなぁ。こんなに美味しいおにぎりを食べたのは初めて。……そんなわけないだろうに、言いながら涙を流す彼女を見ているとどうしようもなく胸が痛くなる。おれはどうしたらよいかもわからず、彼女の口元にある米を一つとると「握り飯なんて、いつでも作るから少しは頼ってくれよ」と、そう声を掛けた。