バウムクーヘンエンド(🐍)

「バウムクーヘンエンド?」

幾層にも重なる年輪の、バウムクーヘンを前に言葉を拾い上げる。尋ねた先はバレンタインデーのお返しとバウムクーヘンを渡した相手になるのだが、エンド終わりの言葉なんて縁起が悪いにも程がある。
しかし、一口大に切り分けたそれを口へと運ぶ発言者は、脳内にあるバウムクーヘンから連想された言葉を出しただけなのだろう。彼女は暫く咀嚼を繰り返したあと、何の考えもなく説明を返した。

「結ばれる可能性のあったふたりが、他の相手と結ばれることを指すんだって」
「それがどうしてバウムクーヘンエンドなんて名前に?」
「片方の結婚式に参列して、笑顔で祝福してさ。……家に帰って貰った引き出物のバウムクーヘンを、ひとりで食べるっていうシチュエーションかららしいよ」
「あー……」

思わず言葉が濁る。なんだよ、やっぱりバウムクーヘンエンドなんて縁起の悪い言葉じゃねえか。これには思わず「お前な、折角人がバウムクーヘンやったのに縁起の悪いことを言うなよ」と言ってしまったが、当然の突っ込みだと思いたい。それに漸く気付いたらしい彼女は相変わらず呑気に頭を揺らしていたが、一口分切り分けたそれをおれの口元に向けるあたり、多少なりとも悪いと思っているらしい。
まぁ、その切り分けたバウムクーヘンはおれがくれてやったものなので、なんの詫びにもなっちゃいないが。

ひとまず、彼女の細い手を掴んで、口元に向けられたバウムクーヘンを食べる。外側はじゃりじゃりと薄い砂糖でコーティングされており、はじめに見た時には普通のバウムクーヘンでいいだろうと思ったが、店員の勧めを聞いておいてよかったかもしれない。

「美味しい?」

下からの視線に気づく。美味しいも何もおれがやったものだろとは思ったが、美味いことは間違いない。よって「うまいよ、だからお前がもっと食べてくれねえと困るんだよ」と言って彼女の手を掴んだまま、操るようにしてバウムクーヘンを切り分けて、今度は彼女の口元へと寄せる。ぱくんと食らいつく様子はどこかひな鳥に見えるが、可愛いので良し。おれもまた彼女を真似るよう「美味いか?」と尋ね「美味しい」と帰ってきた言葉に目元を和らげ、もう一口分フォークに刺しながら言葉を続けた。

「おれは、バウムクーヘンエンドになんかしてやらねえけどな」
「え?」
「……おれは、他の男にくれてやる気もねえし、よその女にいく気もねえってこと」

この意味が分かるか?尋ねた囁きは悪戯に。彼女はその言葉に「それって」と何か聞きたそうにしていたが、おれは彼女の口にバームクーヘンを押し付けることで封じると「ちゃんと用意してから言いたいから、楽しみに待ってな」と笑った。