「のう、アネッタ。これで一体何を作るんじゃ?」
ボウルに入れた常温の有塩バターを練りながら、お手伝い係のカクが首を傾げる。
時刻は早朝六時。食事をするには少し早いが、鍛錬後の空いた時間を埋めるべくキッチンに立った私は、朝市で購入したパセリとディルを並べる。ただ、普段はあまり料理をしないカクからすれば、これが何に変貌を遂げるのか分からないらしい。不思議そうに此方を覗き込むので、「見てのとおりだよ」と笑うと、カクは露骨に唇を尖らせて、拗ねたような顔で「それが分からんのだから聞いとるんじゃろ」と不満を溢した。
「んふふ、それもそうか。えーっとね、材料はバターとハーブ、それから黒コショウ」
「それだけか?」
「それだけ」
「……バターにしかならんじゃろ」
「そうよ、いま作ってるのハーブバターだもん」
そのままじゃな、とカク。
カクは一体何を作ると思っていたのだろう。
ひとまずは彼がバターを練ってくれている間に、並べたパセリとディルのハーブ二種を手にとって、固い枝部分と茎部分を取り除く。固い枝部分と茎部分は別皿に移し、残された柔らかい茎と葉っぱの部分はまな板に乗せて、包丁で細かくみじん切りを行っていく。
早朝で、まだみんな寝静まったこの時間帯は酷く穏やかで、静かだ。とんとんとん、と包丁がまな板を叩く音が心地よく、途中で朝がやってきたとお喋りを始めた小鳥たちのさえずりが妙に愛おしかった。
「……不思議なものじゃのう」
「うん?」
「こうしてお前と肩を並べてゆっくりと料理をするなんて」
「ふふ、楽しいねぇ」
「……そうじゃのう」
ふっと息を落とすような、カクの笑い声が響き、穏やかな会話は続く。
朝早くに起きて料理をするだけなのに、どうしてこんなにも特別だと思えるのだろう。
二種のハーブがそれぞれ均等に細かくなった頃。隣でバターを練っていたカクがボウルを置いたタイミングで、みじん切りになったそれらを包丁で持ち上げて流し込む。はらはらと落ちたそれはバターの上に降りかかり、そこに追加するようにカクが黒コショウが入ったミルを傾けて、ごりごりと挽いていくと黒コショウの匂いが鼻を擽った。
「ん、それぐらいでいいよ。あとは混ぜてくれる?」
「あぁ」
ミルを置いたカクは、混ぜる際に使用していたヘラを手に「すぐに食べられるのか」と問いかける。まぁ確かにいまは鍛錬後だ。お腹がすくのも無理はないが、このハーブバターに関しては、すぐに食べるよりも一度冷やした方が良いされている。が、目の前のカクはどうしてもいま食べたいらしい。此方に向けて期待に満ちたような、甘えた顔を見せるので、彼にうんと甘い私は「ちょ、ちょっとだけなら……」と許してしまうのだった。
そうして、トーストパンの上に出来上がったばかりのハーブバターを塗った私たちは、お互いに合図を出すわけでもなく、同時にざふりと音を立ててトーストを頬張った。口の中に広がるバターの塩味とピリリとする胡椒のアクセント、それから鼻から抜けるハーブと黒コショウの匂い。昨日まではスパンダムさんから粗末なパンだなんだと文句を言われていたパンが、なんだか高級なような、おしゃれな味がする。
「おお!うまいのう!」
「おいしーい……!鼻から抜ける匂いがいいなぁ」
「黒コショウもいれて正解じゃのう、いいアクセントになっとる」
「ねー」
「のう、アネッタ。ハーブバターを塗ったパンの上に目玉焼きやベーコンを置いてもうまいんじゃないか」
「ワ、確かに…!」
そう、なんといっても私たちはCP0内でも末っ子で、まだまだ成長期だ。私たちは冷蔵庫を開いて、中にある卵や分厚いベーコンの塊や肉を見つけると、お互いに顔を見合わせてにやりと笑った。
その後、いくらなんでも食べすぎだと二人そろって叱られたのは内緒の話だ。