寄り道

「ねぇ、カク。あそこの公園に寄っていかない?」

学校の帰り道、〇〇が普段足を止めぬところで足を止めて、わしの手を引いた。
足を止めたのは別に怪しいところでもなんでもないただの公園で、〇〇は問いかけておきながらも「ほら、行こう」なんて拒否権なんてない様子で、わしの手を引いたまま公園内へと足を踏み入れると、隅の方にあるベンチに腰を下ろした。

「うん?遊ぶんじゃないのか?」
「え?カク遊びたいの?」
「いや、特には」
「???」

〇〇は不思議そうな顔をしている。てっきり公園に寄ろうなんていうから遊具で遊びたいのかと思ったのだがどうやら違うらしい。話のかみ合わぬ感覚にお互いに疑問符を浮かべることになったが、とりあえずわしもベンチに腰を下ろすと、〇〇は自分の膝の上に置いた鞄のチャックを開いて何やらもぞもぞと探し始めた。

いつもは行かぬ公園、人目のつかなそうな隅に設置されたベンチ。それに特に何かを言いたいわけではない様子。あと何かもじもじ(?)としている。なぜ彼女が公園を選んだのかを暇つぶしがてら、今までの情報をもとに推理して、はじき出された一つの答えをもとに「〇〇」と彼女の名前を呼べば、彼女が此方を向いたところで触れるだけのキスをした。すると彼女は瞬きを繰り返しながら硬直して、その直後ぼん!と音を立てながら顔を真っ赤に染め上げた。

「なん……え…な、なんでキス……」
「ん?違ったか?公園に誘っておいてもじもじしておるから、こういうことかと思ったんじゃが」
「ちちちち、違うわよ…!!というか公衆の面前なの分かっ――んむうううう!!」

とりあえず説教が始まりそうだったのでもう一度、今度は少しばかり長めにキスをすると、〇〇はキスをされながら怒るような声を上げるのでなんとも器用な女だと思う。それもまぁ、胸板を押されて無理に離されてしまうのだが。

〇〇は唇を離すや否や真っ赤な顔で「もう!これあげたかっただけだってば!!」とかなんとかいいながら、鞄から取り出したものをキス封じとばかりにわしの口にぐいぐいと押し付ける。
押し付けられたものを剥がしてみてみると、それは透明な袋と金色のワイヤー入りリボンでラッピングされたパウンドケーキ2枚で、○○は赤面したままわしをじろりと睨むと「家庭科でパウンドケーキ作ったから、食べてもらおうと思って探してたの!」と零した。

「ほー…そうかそうか、いやーすまん。勘違いしてしもうたわい。」
「どんな勘違いよぉ……。」

がっくりと項垂れる〇〇。しかしキスをされたことを気にしているのか、目を伏せながらも自身の唇を人差し指の腹でむに、と触れるあたり、本当に愛い奴だと思う。ふ、と落ちかけた笑いを咳払いで誤魔化して、代わりに「しかし、なんでまた公園なんじゃ?」と問いかけると〇〇は少しばかり困ったように眉尻を下げた。

「施設だと甘いものが好きなジャブラとか…あと小さい子も多いじゃない?前にカクに渡そうと取っておいたものも食べられちゃったから、施設で渡すのは危険だなぁって。」
「あー……成程、そういうことか。それじゃあ、これはありがたくここで頂くとするかのォ。」

わしに渡そうと思ったものが別にあったというのは初めて聞いた事だが、まぁ確かに、毎日決まっておやつが出るわけじゃない施設での甘いものなんて、狙われても仕方が無いか。丁寧にラッピングされたそれを解いて、ワイヤー入りリボンは無くさぬようポケットにしまうと、早速中にあるパウンドケーキを取り出して、がぶりと半分ほど齧りついた。

「ん!バナナ味じゃ、…ん~~~うまいのう…。」

口の中でふんわりと広がる優しいバナナの甘さに思わず頬が緩む。その姿を見て〇〇も少し得意げな表情を浮かべながら「お、あったりー。ひひ、バナナパウンドケーキだから余計にカクに食べてもらいたくてさー。」と得意げに笑った。

「うーん、役得じゃのう……」
「料理上手な彼女で良かったねぇカク君?」
「そーじゃのー」
「あ、適当だなぁ」

くすくすと小さく笑う〇〇の隣で、早々に二つ食べきってしまったわしは満足感に吐息を零す。「ああ、うまかった」と感想を述べると、彼女はそれはもう嬉しそうに瞳を細めながらにこにこと笑むので、それでまたわしの心は満たされて、少し不思議な気持ちになってしまった。だってそうだろう。こんなお金もかけていない、言ってしまえばただ寄り道をしてパウンドケーキを食べただけなのに、何故こんなにも心が満たされるのだろう。

 わしらの頭上には茜色の空が広がっていて、遠くの方では17時を知らせる夕焼けチャイムが響いている。〇〇も「あ、そろそろ帰らなきゃね」と言って、帰り支度を始めるように開いたままだった鞄のチャックを閉めて、持ち手を肩にかけるので、わしは妙な名残惜しさを感じて彼女の手を掴んだ。

「うん?どうしたの?」

○○が不思議そうに首を傾げる。ああ、こんな時自分がもう少し大人だったら彼女を帰さないなんて選択が出来ただろうに。しかし今その選択肢を与えられていないわしは、名残惜しさから彼女に向けて、「のう、〇〇。最後にもう一度キスしても良いじゃろうか」と問いかけたのだが、彼女は少し困惑したような表情を浮かべた後「や、やだ」と言うので、わしは彼女の顎を掬ってしっかりとキスをしてやった。