靴選びは君と一緒に(🦒)

 たんまり入った、お給料の一部を貰う。それは、人間換算では成人していても、種族換算で言えばまだまだ子供であることが理由らしいが、子供であることを理由にするならばもっと甘やかしてくれてもいいんじゃないのと思うのは当人であるアネッタの談。

 懐が温かい状態で入ったのはそこそこ名の知れた靴屋さんだった。オットマンのような、背凭れの無い椅子に座って足を測ってもらったあと、出されたいくつかの革靴を見る。しかしながら、目の前に置かれた革靴はどれも大きなサイズばかりで、試しに一つ足を入れてみたが、大きすぎて歩くこともままならない。

「おっきーい……」

 自分の足と比べても、うんと大きな靴に感動して足を上げてみる。プランと上げた足先に引っかかる靴は揺らめくが、やはりどうみたって大きすぎる。多分、五センチくらいは大きいのではなかろうか。

「ねぇ、カクって足大きいけど何センチなの?」
「うん?あぁ…三十…いや、さっき測ってもらったら三十一じゃったな」
「でっかぁ……私より五センチ以上大きいの……」
「成長期じゃからな」
「成長期ながすぎるって」

 隣で、同じように新しい革靴を試すカクが適当なことを言って笑う。「返してもらうぞ」とあっさり取られた片方の革靴は彼の靴に収まって、シンデレラフィットとはこの事かと思ったが、なんだかその革靴がやけに似合っているように思う。他の革靴よりも飾り気もないデザインだからだろうか。アネッタは他の革靴を見比べた後「その革靴、今まで試した奴のなかで一番いいかも」と伝えると、彼は嬉しそうに口角を吊り上げた。

「そうか…うん、太鼓判も押してもろうたし、これにするかのう」
「ふふ、じゃあカクの靴はそれで決まりだね」
「お前はどれにするのか決めたんか、わしと似たような型にするか?」
「ううん、革靴はすっぽ抜けるからいつもみたいにブーツかなぁ。んん……でもたまには可愛さ重視でローファーとか、カリファみたいにヒールが高いものにするのも有りだよね」
「……やめとけ、その尻ぬぐいはわしがすることになるんじゃぞ」
「何よぉ……」

 私は褒めてあげたのに!唇を尖らせたが、カクの意志は変わらない。じゃってお前はヒールが高いものを履いた時にずっこけた上に、すっぽぬけた靴を飛ばしておったじゃろうが。そんなことを言いたげな視線が向けられるとどうにも分が悪く、奥から出してもらった普段と同じ型のブーツに足を通して、意味もなくぱたぱたと揺らした。

「うーん……安心と安定感が凄い……」
「じゃあそれがいいじゃろ。うんうん、それで決まりじゃな」
「ううっ、私があんまりにも似合うから……!」
「……お前のポジティブさには、時々どう反応したらええか、分からなくなるのォ…」

 微笑ましいと言うべきか。馬鹿だと呆れるべきか。こういうことを言うから安心して給料全てを預けられやしないのだと金銭を管理するカクは息を落とすが、まだ彼女を立たせるわけにはいかない。カクは隣に控えた店主に、いま履いているものをそれぞれ購入する旨を伝えて残りを片づけてもらうと、彼女の前に跪き、うやうやしく彼女の前に手を出した。

「それではレディ、足を此方に」

 それはちょっとしたお遊びで、彼女の気が紛れるような悪戯で。アネッタは一瞬、ほんの一瞬だけ表情を曇らせたが、それ以上に普段はしないようなキザったらしい発言がおかしかったようだ。彼女は息を吐き出すようにして噴き出して、それからきゃらきゃらと笑うと「うむ、くるしゅうないぞ」なんて、どこで得た知識なのかトンチキ喋りで返し、立てた膝の上に足を置いた。

「……、…ねぇカク」
「うん?」

 カクの長い睫毛が下を向き、返事を返す。その間、ブーツ越しではあるが足首には金色の輪っかがぱちりと止められて、「反対」と促されるまますり替えた足にも、揃いの輪っかがつけられる。
窓から差し込む光できらりと光るそれには世界政府の印が小さく掘られており、管理対象を示すその輪を通してから、ブーツが窮屈に思えて仕方が無い。それこそ、まるで足首を掴まれているような。

「……、……あのね」

 しかし果たしてこれが意味を成すものなのかだとか、外したいと言うのは酷く身勝手にも思える。それに、何よりも、見上げるカクの瞳はそういった反論だとか、少しの意見も許さない。アネッタはそっと下ろされた足を揺らしてキラキラと光るそれを眺めた後、見上げるカクの瞳を見て笑みを返した。

「このあと、パフェでも食べにいこうよ。それも、このまま新しい靴で行くの!」
「おお、ええのう。新しい靴は気分が上がるしの」

 そうして、お互いに贈り合った靴で店を出る。春一番に吹く暖かな風は、花弁と共にポニーテールと黄色いネクタイを揺らし駆け抜けていく。ああ、なんと気持ちの良い日だろうか。カクはアネッタの手を引いて、そのまま指を絡めると「さあて、アネッタの奢りで一体何を食べようかのう!」と悪戯に笑って歩き出した。