可愛いお客さん

 某ス〇バ。訳あって短期アルバイトをしているわしは、丁度これからレジ係を変わるところなのだが、わしよりも数日後に入った後輩が「カクさん、ねぇカクさん!」とどこか落ち着きのない様子で話しかけてきた。

「なんじゃ、騒々しい。わしはこれからレジに入るんじゃが」
「ほらっ、あの一番後ろに並んでる人見てくださいよ。あそこ。あそこにおれのモロタイプな女の人がいて…」

――モロタイプな女の人ねぇ。

 興味がないのは、わしには好きな女がいるせいなのかは分からないが、取り敢えず話を合わせるために、レジ前にできた列の最後尾へと視線を向けると、その中に随分とよく目立つ小麦頭の――○○がいた。

「あー…。」
「あれっもしかして可愛くないですか?」

 そんなわけないじゃろ。と言い返すわけにもいかず、「いや、別に」とだけ言葉を返すと、後輩は頬をだらしなく緩めながら「綺麗だなぁ」「美人だなぁ」「あ、でも可愛い系かも」と一人楽しそうにぼそぼそと呟いている。

 とりあえず客には聞こえないようにするんじゃぞと釘を刺して、丁度良い頃合いを見計らってレジを代わると――丁度よく次は○○の番だったらしい。
ただ、○○は下のメニューに視線を落としていて、わしに気付いちゃいなかったが。

「ええっと、」

 さて、どうしたものか。そういえば短期アルバイトを始めたとは言ったが場所までは伝えてはいなかったっけ。
 ○○は相変わらずメニューと睨めっこをして、少しばかり思案顔を浮かべていたが、すすすと細い指でメニューをなぞったのち顔をあげて「あのクラン…チー……、………。」と言いかけて、固まった。

 そりゃあそうだ、わしが店員としているのだから。

 恐らく注文しようと思ったものはクランチー.アーモンドチ.ョ/コレートフラペチーノあたりだと思うが、○○はまた食いすぎだと言われるかと思ったのか長い長い間を開けたのち「ブ…ブラックコーヒーで」と、困惑を滲ませて呟く。ブラックコーヒーなんて、苦いと言って普段から飲まないくせに何を言っているのやら。

「…。」
「………。」
「………。」
「…クランチーアーモンドチョコレートフラペチーノで…」
「かしこまりました~」

 わざと聞こえませんって態度で返答を返さないでいると、○○は遂に観念したかのように「うう」とうなりながら本来の品を注文。わしはそれに対してにっこりと笑顔で言葉を返せば、○○からはどこか恨めしそうな目が向けられる。

「店内で召し上がりますか?」
「お…持ち帰りで…」
「かしこまりました」

 あー面白い。
 もちろん言葉には出さないが、店員用スマイルをそのまま顔に貼りつけて注文をいれ、暫くして出来上がったものを受け取ると、黒ペンを片手にきりんのイラストと”食べすぎ注意・気をつけて帰るように”という言葉をカップに残して彼女へと手渡した。
 ○○は受け取るや否や、そそくさと店を出ようとしたが出る直前でわしのメッセージに気づいたらしい。くるりとこちらを振り返ると、唇を尖らせてじっとりと見つめた後、小さく手をひらひらっと振って店を出た。
 その姿があんまりにも可愛らしくて、それから、面白くて。つい「ふ」と息が零れ、次にやってきたお客さんに怪訝そうな顔をされてしまったが、まぁ、面白いものを見れたから良しとしよう。

(ちょっと!カクさん!!いま、カクさんに向かって手を振ってましたけど友達だったんですか?!)
(え?あー、そうじゃのう。)
(ちょっとぉ紹介してくださいよぉ…)
(嫌じゃ。)
(えぇー……。)