六話:鈍感にアピールを(🦒)

「おーいカク、嫁が迎えに来たぞー」

 ホームルームを終えた放課後。当然のように迎えに来たアネッタを見て、近くにいた複数の男子生徒が囃し立てる。アネッタはそれを受け、顔を赤らめるわけでも怒るわけでもなく、どこか面倒くさそうな顔で「帰る場所が同じなんだから一緒に決まってるじゃない」ともっともな言葉を返すあたり、こういった状況に慣れているのだろう。彼女はそれでも囃し立てる事をやめずに笑う男子へと近付くと、「じゃあ、君たちが同じ施設の子だったら私の旦那様になってくれるってこと?」なんて茶目っ気良く笑うが、冗談ではない。
 カクは早々にアネッタの肩を引いて彼らの会話を遮ると、それ以上の会話を許さずに「帰るぞ」と声を掛けた。

「はぁい…ってちょっと、なんで先に行くのよ」
「はようせんと置いてくぞ」
「もう置いていってるじゃないっ、っと、……?みんな黙り込んじゃってどうしたの?…って、ねぇ!カク!先いかないでってば!…もう、あ、じゃあ、みんなまた明日っ」

 先に歩き出すカクを見て、それから真っ青な顔で黙り込んでいる生徒を見て、アネッタは首を傾げていたがヒエラルキーだとかカーストの頂点には彼がいる。よってカクがひとり歩きだせば、後を追いかけるように教室を出て歩きだし、先を歩くカクの隣へと並ぶと、口に出された嫌味を聞いて瞬いた。

「……お前はわしを怒らせる天才のようじゃのう」
「なんのこと?」
「そういう鈍いところも腹立たしいってことじゃ」
「わけわかんないこと言わないでよー」

 まぁ、アネッタからすればカクがこうやって口うるさく言う姿は珍しい光景ではない。彼女も特に気にした素振りも見せちゃいなかったが、こんなんだから怒らせる天才だと言われるのか。「短気は損気だよ」なんて得意げに語られるクソバイスを耳に、下駄箱で靴を取る。その時カクは靴の横に置かれた封筒に気付いてそれを手にするが、先に革靴を履いたアネッタからすれば、その光景もまた見慣れた光景だ。

「カクってば本当にモテるよねぇ」
 そう言って、にやにやと笑う顔の腹立たしいこと。
「……の、ようじゃのう」
「うわ。否定しなかったよ」
「否定もなにも事実じゃしのう」

 そう、こうやって封筒を入れられることもまたよくある事。この手紙の中身に関しては、十中八九見る事も無くゴミ箱行きだろうが、ひとまずは彼女の前だ。折角ならば有効に使ってやろうと指に挟んだまま、靴を取り、床に落とす。それから同じように革靴を履いたあと、いわゆるラブレターを呼ばれるであろうそれで彼女の顔を軽く叩いて注目を此方に向けると「わしが付き合ったらどうする?」と尋ねた。

「え?」
「じゃって、そういうことじゃろこれは」
「そ、うだけど、……付き合うの?」
「そりゃあ分からんのう」

 驚き、瞬く瞳。まるで予想もしていなかったって顔だ。そのあとのアネッタはなんだか小難しい顔をしたあと、暫く考えこんでいたが、そもそもの話、人の恋路に恋人関係でもない自分が足を踏み込んではいけないと気づいてしまったようだ。

「……私、がどうこう言っても良い問題じゃなくない?」

 鈍いくせに、こういうところだけは真面目で困る。それでも複雑な色を残したままの様子を見て、ひとりほくそ笑むカクは「そうじゃの」とだけ言葉を返して歩き始めたが、後ろを歩く彼女の顔色は暗く、普段よりも足が重い様子であった。