呼び出し

うちのクラスに今来れたりする?そっちも文化祭準備中だよね。

授業中にも関わらず届いた、幼馴染からのメッセージ。しかし、呼ばれたのであれば行くしかあるまいと周りが文化祭準備を行っている中、親しい友人にだけ断りを入れてから教室を出ると、おおっという野太い声での響めきが隣のクラスから響いた。不審に思いながら隣のクラスに顔を出すと、窓際に座るケイミーがあっという顔をした後に、教室の中央を指差した。

「あ、きたきた。アネッタちゃん、あっちにいるよ。」
「?、すまんのう」

何やらわしがこのクラスに訪れることは知れ渡っているようで、不思議に思いながらも彼女の指先を辿るように視線を中央に滑らせると、何やら妙な人だかりが出来ていた。

「………なんじゃ、あれ」
「ふふっ、行ってみたら分かるよ」

わしの問いかけに、ケイミーがくすくすと肩を揺らして笑う。
主にこちらから見える人だかりの外側は、背の高い男どもが多く、あの男どもの視線の先にアネッタがいるのだと思うと少々、いや、かなり不快で、わしはその人だかりへと歩を進めて男たちの壁を剥がすように男たちの体をかきわけていく。すると視線の先にはチャイナ服に、アイドル衣装、プリンセスドレスなど煌びやかな衣装を身にまとう女子生徒たちが立っており、彼女たちが動いたりポーズを決めるたびに、おおっと男たちが声を上げる。なるほど、先ほどのどよめきはこれが原因か。というかそもそも一体何をやっているんだ。一瞬学校であることを忘れてしまうような光景に、何とも言えぬ表情を浮かべてしまったが様々な衣装に身を包む女子生徒のなかでひときわ目立つ存在に、わしの目は奪われてしまった。

「あ、カク。ねえ、これどう思う?」

そこには普段、あまり飾り気のない服ばかりを着ているアネッタが可愛らしいメイド服を着て立っていた。わしの顔を見るや否や、ぱあっと嬉しそうに笑いながらわしに近づいてから服を見てくれと言わんばかりにその場でくるりと回ってみせる。の、だが、大振りのフリルとスカートがふんわりと舞うと、男たちはおおっと鼻の下を伸ばしながら声をあげるのだからどうしようもない。
しかし、わしもまた、ぎゅうううん と心臓を鷲掴みされるような感覚を覚えるのだから、どうしようもない。

「え、あ、あぁ。アネッタのクラスは喫茶店、なんじゃな」
「そうなの。今は、どの衣装にするか考えている最中なんだけどアイドル衣装にメイド服、チャイナ服といっぱいあるから着てみようってなったんだよ」
「そういうことか。…しかしどうしてまたわしを呼んだんじゃ。何か忘れ物か?」
「あ、そうそう、メイド服を着るって話になった時にコアラちゃんたちがカクに見せた方がいいんじゃないかって。」

思わず目を瞬かせる。近くにいたコアラたちに目を向けると、ぐっと親指を立てられてしまい、感謝すべきか余計な真似をしてくれるなと言うべきか。そんなことを考えていると、袖が引っ張られるような感覚を受けて意識はアネッタに引き戻された。

「でね、…私もカクに見てもらいたいなって思ったから呼んだんだけど、…その、どうかな」
「似合っとるんじゃないか?」

わしは平静を装って、本音を飲み込んでさらりと呟いたがアネッタは少しばかり納得いっていないような顔で「ちがくて、」といってもう一度裾をくいと引っ張ると、顔に恥じらいの色を溢れさせながら「…可愛い?」とわしを見つめるのだ。ああ、これだから彼女に夢中になってしまうのだ。
じわりと滲む、陽だまりのような暖かい愛おしさに、わしはいつもよりも幾分か穏やかに言葉を紡いだ。

「ああ、よく似合っておる。……可愛いぞ。」