その日は兎角暑い日であった。
肌を焼くような日差しから逃げ帰った筈のバックヤードは蒸し暑く、衣類を脱いで休憩をする男たちを横目に、ごうごうと音を立てる製氷機を開いたアネッタは、薄く唇を開いて息を飲む。よりによって今日は炎昼で、氷が飛ぶように売れる日だ。製造が追いついていない製氷機の中はすっからかんで、欠けた氷すら残っていなかった。
ああ、なんて日だ。ただ、虚しくごうごうと音を立てる製氷機の音がやけにうるさく感じる。飛び出した冷気が悪戯に肌を撫でても、なんの慰めになっちゃいなかった。
「おお、アネッタ。ちと遅かったのう」
流石に上着を脱ぐことになった炎昼。製氷機を前に呆然と立ち尽くすアネッタを見て、ちょっとした揶揄いを向けながら笑う。製氷機の氷は今しがた無くなったところだ。まったく運が悪い。
しかし、アネッタはうんともすんとも言わなかった。製氷機の扉を開けたまま呆然と立ち尽くして「アネ?」ともう一度声を掛けても反応が無い。しまった、こんな暑い日に煽ったのがまずかったか。不思議に思い一度頭を掻いた後「なぁアネッタ」そう言って彼女の肩を掴んだ瞬間、言葉なんて交わしちゃいなかったが全てを悟った。手に力を込めて肩を引くと、驚くほど簡単にアネッタの体がぐらりと倒れたのだ。
「あ、れえ……?」
カクの胸板に収まったアネッタの体は熱い。それに茹でタコのように真っ赤だった。単なる熱か、はたまた熱中症によるものか、どちらかは分からないがいまは判断する時間も惜しい。汲んできたばかりの水が入ったボトルを手に、コルク栓を歯で噛んで抜くとボトルの口を彼女の口元に向ける。しかし彼女はすでに意識もあやふやで、ボトルを傾けたところでたぱたぱと顎を伝うだけであった。
「……アネ、人命救助じゃからな」
後で文句を言うなよ。そう断りを入れてボトルを持ち上げたわしは、口の中へと水を含む。勿論、人命救助のために。ボトルを適当に製氷機の上に置いてから彼女の唇へと口付けて、薄く開いた其処に口移しで水を飲ませてやると、僅かに彼女の体が強張ったが、そのまま水をこくこくと喉に流し込む。それを二度ほど繰り返してやれば、多少は楽になったのだろう。アネッタはぼんやりとした様子で、はふ、と息を吐き出した。
「………鱗を持つお前じゃ、この暑さはしんどすぎたか」
小さく言って顎を濡らす水跡を拭うように、彼女の唇を撫でる。普段はひんやりと体温が冷たいくせに、今は風呂上りのように体が熱く、体温調整が機能していないことがよく分かる。いつのまにか背後に立っていたパウリーは破廉恥だと言いたげな顔をしていたが、流石に熱中症患者を前にしてそれは言えなかったらしい。「んぁ……海辺に新しくきた観光船から見積依頼が…」と、思い出したようにふにゃふにゃと喋り出すアネッタを見て「分かったから今はもう喋るな」と言って大きく息を吐き出した。