いつわり姉妹の誕生日

 伸ばした爪先が春を彩っていた。

「ねぇ、カリファ。本当に誕生日プレゼントが一緒にお風呂に入る…でいいの?」
「えぇ。というかプレゼントはもう貰ったじゃない」

 もこもこの泡を掬って、ふうと息を吹きかける。吹きかけた息は軽い泡を押して、押し出されたものがシャボン玉になってふわりと浮き上がる。一方で体に泡を纏いながら肩までしっかりと浸かったアネッタは、何か不満そうな、それでいて不安そうな顔を向けるので「どうしたの」と尋ねると、「だって、ネイルしかプレゼントできてないし…」と言葉が返ってくる。

「?、いいじゃない。これ、私の好きなブランドでしょう?」

 それも、色合いを見るに、春の新色だろう。春にぴたりと嵌まる柔らかい桃色は鮮やかで、それでいて新鮮だ。彼女が一体何を気にしているかは分からないが、思わず顔が綻ぶほど喜んだのもまた事実。アネッタを暫く見つめた後「ありがとう。素敵な色で気に入ったのだけれど、アネッタはそれじゃ不満かしら」と先ほど変わらぬ声色で尋ねると、アネッタは言葉を詰まらせるように口を噤む。人差し指でくるりくるりと己の髪を絡ませて弄るのは照れの現れか、気恥ずかしそうに瞳を伏せると「そうだけど……でもさぁ…こう…なんかこう…もっと誕生日―!って感じのじゃなくていいの?」と問いを返した。

「ふふ、誕生日パーティでもするつもり?」
「それいいかも…!」
「あら、でも残念ね。主役が知ってしまったもの」
「そうでした……」

 しょんぼりとするアネッタを見て、百面相だとカリファは笑う。
 なぜ彼女はCP9に居ながらも純真でいられるのだろうか。それが不思議で可笑しくて、彼女の甘さに何処か眩しさを感じながらゆっくりと息を落とすと、ちゃぷりと泡湯を揺らして隣へとやってきたアネッタが、そっと頭を寄せる。肩に寄せた頭は甘えるように擦り寄って、問いかけ替わりに向けた視線を受け取った彼女は長い睫毛を伏せたまま、ぽつり、ぽつりとシャボン玉が弾けるように語り出した。

「…あのね、カリファはずっと、……グアンハオに居た時から一緒でしょ……?」
「……そうね」
「それで、その、……っわ、…私のお姉ちゃん……だと思ってるから、その、……もっと盛大にお祝いしたかったの」

 ぱちん、ぱちん。シャボン玉が弾けるようにカリファが瞬きし「お姉ちゃん?」と聞き返す。

「そう、お姉ちゃん」
「私は一人っ子だったと記憶しているけれど」
「がびーん!」
「……でも、……そうね、もしも妹がいたらこんな感じなのかしら」

 ありもしない、妹を考える。
 もしも妹がいるならば、きっと彼女は私や両親に似た容姿を持ち、賢い筈だ。かたや、身を寄せるアネッタは、似ても似つかない容姿で、境遇も、事情も、種族すら異なる。妹と言うには厄介事を背負いすぎていて、彼女を妹と言えば、恐らく父親も良い顔はしないだろう。それなのに、そう、理解しているのに、彼女を躊躇無く切り捨てる事が出来ないのは何故だろう。彼女と居た年数の影響か、それともそれこそが、彼女なのか。
 答えも出ぬまま、カリファも静かに視線を落とす。そんなカリファを見て、アネッタは顔を覗き込むと、目元を細めるようにして笑った。

「ねぇ、カリファ。それってどんな感じ?」
「……少し、暖かいわ」
「ふふ、良かった」

 アネッタは嬉しそうに笑む。
 それから、カリファも。

「誕生日おめでとう、カリファ」
「ありがとう、アネッタ」

 今日はまだ終わらない。二人だけのお風呂はまだまだ続いたし、お風呂上りもそこで解散することはなく、今日だけは二人でベッドに寝転がって、いつわり姉妹の話は続く。