「いいか、どうしても飲み会に行くのなら酒は飲まない、男と連絡先を交換しない。それから、迎えはわしが行くから他とは帰らない。これをちゃんと守るんじゃぞ」
そう言って送り出したあと、特に飲み会が終わったという連絡は無かったが、事前に教えてもらった店の前で待っていると、ガヤガヤと騒がしい集団が店から出てきた。人数はおよそ十五名程度。男女比はやや男が多いだろうか。その中で男たちに囲まれた女の中で、ひときわ目立つ小麦色の髪をした彼女へと近寄ると、「アネッタちゃん、この後送ってくよ」なんて声が聞こえてきた。見れば、男は親し気にアネッタの肩を抱いており、周りの男たちも顔を見合わせて「じゃあおれも」と声を揃えてるが冗談ではない。
わしは背後からアネッタの腕を掴み、アネッタが此方を見る時間すら与えずに己の方へと引き寄せると「アネッタ、帰るぞ」そう言って、男たちを睨みつけた。
「あえ……カク……?」
普段よりも緩い口調が上を向く。僅かに酒気を感じるのは、約束を破ったのかとも思った、が彼女の性格上わしとの約束を破るようには思えない。であれば大人数で囲んでいる男たちを疑う方が理に適っているように思えて、「あ?なんだよお前…」とたじろぐ男たちに向けて、彼女の腰をしっかりと抱き寄せると、愛想も見せずにもう一度男たちを睨みつけた。
「すまんのう、こいつはわしが送っていく」
「急にやってきて何言って…つーかお前誰だよ」
「わしか?わしはこいつの婚約者じゃ」
「っこ、っこん…ッ?!」
「……それとも何か?納得いかんのであれば、未成年のこいつが酒の匂いをさせとることを警察で一緒に話しても構わんが」
そうして飲み会メンバーから離れ、暫くが経った。二十一時も過ぎれば公園に人の姿は殆どなく、辺り一帯は寝静まったように静まりかえっていたが、飲み慣れていない酒を摂取した彼女の頭はふわふわと揺れている。それを見て、自販機で買った水を頬にぴとりとつけてやると、彼女は大層驚いた様子で肩を跳ねさせていたが、酒のせいで体温が上がっているのだろう。ペットボトルを受け取った後も、暫く頬につけて「気持ちいい」とか何とか言っていた。
「……飲み会はどうじゃった」
こくこくと彼女が水を飲む様子を見た後、ぽつりと問いかけた言葉。色々問い詰めたいことはあったが、それよりも何か嫌なことはされなかっただろうかと心配してのものだったように思う。なのにアネッタときたら、ふにゃふにゃと緩く笑っては「あのね、カクの好きそうなからあげがあってね」「味付けがタルタルで、すごいおいしくて」「ほっけもすごくおいしかった」「デザートにはバナナアイスもあったんだよ」と食べ物と、それから自分を絡めた話を嬉しそうに語るので、なんだか気が抜けて笑えてしまった。
ああ、こういうところが彼女に勝てないのだ。あの飲み会の場で、彼女は一ミリたりとも靡いたりしちゃいない。アネッタは、今ここで話すとおり飲み会の中でもわしのことを考えてくれていたのだ。
善意でしかない彼女の語りは長く続く。ちょっとした講演会だ。それでも「カクは好きな味だと思う」「今度はカクと行きたいなぁ」と笑うアネッタを見ると怒るなんてことは出来ず、「そうか、じゃあ今度は一緒に行くかのう。わしも食べてみたい」と言って彼女の肩を抱きながら頭を撫でてやると、アネッタはそりゃあもう幸せそうにはにかんで「うん!」と元気よく頷くのであった。