箱の中身はなんじゃろな?(🔥⚔/🥖)

 こっちに来てみろ。
 絶えず物資が運び込まれる甲板にて、手招くフォッサへと足を進める。甲板には、奇襲をかけてきた敵船から頂戴した宝箱や武器、食べ物などが種別ごとに並んでいた。その数はだだっ広い甲板を埋め尽くすほどで、食糧危機を嘆いていたサッチなんかは機嫌のよい様子で酒樽を叩いている。

 あの甲板端で、呆然としている敵船の船員たちはこの後どうなるのだろう。自分と同じように手厚い保護を受けて家族になるのだろうか。それとも海賊らしく全員殺してしまうのだろうか。疑問を抱きながらも、こればかりは彼らの無事を願うことしか出来ないが、まぁ死んだとて救済される世界だ。私が心配することではないのかもしれない。
 アネッタは武器類には触れないよう避けて進み、声を掛けてくれたフォッサの元へと歩む。それから彼の周りにある多くの宝箱見たあと、その中でもひときわ大きな存在に気が付くと、間の抜けた声を零した。

「わぁ………」

 自分よりも大きな宝箱に驚き、圧倒される。それこそ自分がすっぽり入っても余裕のある大きさだ。試しに体重をかけて押してみてもビクともせず、拳で叩くと中には詰まったような鈍い音が響く。
 これ、一体どうやって積み込んだんだろう。疑問に思うアネッタは、床に落としたピッキングツールを革袋にしまうフォッサを見ながら感想を漏らした。

「これ、大きいねぇ……今までみた宝箱の中で一番の大きさかも」
「そうか。じゃあこれの解錠は済んだから開けてもいいぞ」
「え、いいの?力任せに開けたりしないの?」

 その言葉に、瞬くフォッサ。
 彼は顔を背けて紫煙を吐くと、簡潔に返した。

「その宝箱は売れるからな」
「こんなにでっかいのを買う人がいるんだ……」
「買う奴がいるから存在するんだろう」
「そうだけどさぁ」

 確かに、この宝箱は素人目に見ても装飾が凝っているように見える。金具部分には細かな模様が彫られているし、中央の留め具にある獅子の両目は宝石仕様だ。ともすれば、この中身もそれなりのものがあるのではないかと期待をしてしまうが、これだけ分かりやすい見目をした宝箱だ。想像通りの金銀財宝が出てくれば良いが、もしかすると見た目が派手な分ダミーかもしれないし、それこそゲームに出るような化け物が出るかもしれない。期待半分、疑い半分。アネッタは「おばけとかでないよね」と尋ね、「さぁな」と笑う声を耳に、答えを求めてゆっくりと開いた。

「おお……!」

 宝箱の中身は、まるで幻想のような光景だった。最初に目に飛び込んできたのは、輝く金貨と銀貨、それに美しい宝石や装飾品が積み重ねられた山であった。美しい財宝の輝きは眩いほどで、心が魅了されたように弾む。

「す……っご、すごいねぇ!フォッサ!」
「あぁ、持って帰ってきて正解だったな」
「はー……凄いねぇ……こんな財宝初めてみた……」

 真っ赤な宝石はルビーで、エメラルドグリーンの宝石はエメラルド。海のように青い宝石はアクアマリンだろうか。綺麗にカッティングされた宝石単体もところ狭しと入っているが、大粒の宝石を使った装飾品たちも中々のインパクトがある。それに、これだけ大きな宝箱だ。いくら上げ底をされていても、見える範囲だけで結構な額になるのではなかろうか。

 アネッタはフォッサに触ってもよいか断りを入れて、許可を得てから金貨を取る。ぴかぴかぎらぎらと光るそれは、元の世界で売っていた硬貨チョコとは比べ物にならないぐらい美しく、それでいて重い。なんだかそれが特別なもののように思えて、思わずそれを見ながらうっとりとしていると、フォッサが「それはお前にやる」というので、アネッタは前のめりになって尋ねた。

「えぇ?!い、いいの?!」
「宝箱を開けてくれただろう。手間賃だ」
「で、でも解錠したのはフォッサで…」
「……おれは、お前に依頼したんだ」
「……っありがとう…っ!」

 フォッサはあまり口数の多い男ではない。けれど、アネッタはこうやってさり気無い優しさを見せるフォッサが大好きであった。アネッタは喜びを惜しみなく出して笑む。しかしそれがなんだかこそばゆくて仕方が無く、フォッサはいまある感情を誤魔化すよう頭をかいて「他は何か気になるものはあるか」と訊ねた。


 おお、その首飾りいいじゃねえか。
 物資の整理を終えた頃、甲板を歩くアネッタを捕まえてサッチが首元を見る。
其処には雫型で、大振りのアクアマリンを使った首飾りがあった。それも、宝石を一番に目立つように細いワイヤーで固定するように編み込まれたそれは、陽の光を受けてきらきらと細やかな煌めきを放っており、アネッタは笑顔が隠せない様子でへらへらと頬を緩ませた。

「えーっへへ……フォッサがねぇ、作ってくれたの」
「フォッサが?……アイツほんと器用だな……」
「えへへ……こんなに大きい宝石を貰ったの初めて……。…あっ、アクアマリンってね、航海のお守りにも使われるんだって」
「へぇ…じゃあまさにアネッタにぴったりだな」
「そうなの!」

 そうなのそうなの!機嫌の良いアネッタは、久しぶりに子供らしさを前面に出して、その場で踊り出しそうな勢いでぱたぱたと足踏みをする。それこそ、まるで宝物を見つけた子供だ。サッチもその様子が微笑ましくて仕方が無いと笑うと「そんじゃ、おれっちからもお守りっつうことで」とアクアマリンを掬ってそこに唇を押し付けようとすると、アネッタは慌てた様子でアクアマリンを手で覆った。

「わあ!サッチのお守りは大丈夫です!」
「お、なんだ反抗期か?」
「ち、ちがうけどぉ……」
「……じゃあアネッタにキスしてやろ」
「ぎゃ!」

 サッチはいつもこうだ。優しいけれど、時折ウザ絡みが過ぎる。アネッタは逃げられずに頬にむちゅーとキスを受けると、小さく悲鳴を上げて逃げ出した。