末っ子というのは、兎に角厄介なものである。何か面倒ごとがあれば末っ子だからと押し付けられるし、かといって反論したって勝てやしない。世間一般では末っ子は甘やかされているなんて言うが、甘やかされている割合なんてほんの僅かで、割に合わないにも程がある。
今日も今日とて、担当制だった筈の洗濯を押し付けられたアネッタは、一時間以上かけての洗濯を終え、部屋に戻るところであった。だが、それも「おいアネッタァ!」なんて柄の悪い声が後ろから響けば嫌な予感はするもので、アネッタはその場でハァとため息を吐きだして振り返り──そして叫んだ。
「ちょ、お…っせめて下を隠して!!!!」
驚いた。後ろにはびしょびしょの濡れ鼠ジャブラが立っていた。それも何故かタオル一枚も羽織っておらず、たまらず部屋へと持ち帰るつもりであったバスタオルを一枚を彼に押し付ける。ジャブラは「別にいいだ狼牙」とか何とか言っていたが良いわけがない。
ひとまず、体や長い髪の毛からぼたぼたと落ちる雫によって広がっていく水溜まりも気になるが、わざわざ全裸状態で声を掛けてきたのだ。きっと何か用があったのだろう。そう思い、もう一枚持っていたタオルを広げて彼の頭の上にかけてやれば、鬱陶しそうな目が彼女を見下ろした。
「それで?全裸で登場して、一体どうしたの?」
「あぁ?……あぁ、それがよ、シャワーの調子が悪くて…お前あの、なんつったか、……ああ、そうだ、ガレーラのとこで大工やってたんだろ。ちょっと見てくれよ」
「私お風呂は担当外なんですけど」
「細けえこと言うなよ」
「細かいか……?」
まぁ、色々言いたいことはあるが、確かに風呂が使えなくなるのは痛い。特に専門ではないが視るだけならばできるかとアネッタはジャブラの頭から手を離せば、びしょびしょの濡れ鼠と一緒に浴室へと向かった。
「あー……これは…詰まり、かなぁ」
確かにジャブラの言うとおり、シャワーの調子がどうにも悪いようであった。兎に角水の出が悪く、限界まで捻ってもちょろちょろと垂れるほどの水しか出ない。浴槽にはきちんと湯を張れているあたり、恐らく加熱を行うエンジン部分のトラブルというよりも、組み上げ式のパイプに突然何かが詰まったと考える方が自然に思える。
このあたりは組み上げ式あるあるのトラブルだ。少々面倒に思えるが、一度潜って船底を見てやれば解決できそうだ。──まぁ、あとはそれを一体誰が見るのかだが、船大工の男たちはどちらも悪魔の実の能力者だ。潜るわけにはいかないだろう。となればおのずと担当者は彼女に回るわけで、アネッタはハァとため息を吐き出せば「私がやるしかないかぁ」と呟いた。
「おう、そうか。じゃあ港に寄らずともすぐにでも直りそうだな」
「まぁ多分ね、これで船底を見て詰まりじゃなかったらルッチとかカクに視てもらったほうがいいと思うけど……」
「げっ…、まじかよアイツらにお願いしたくねーな……」
「そのくらいは頑張ってほしいけど、私も二人にお願いするから大丈夫でしょ」
「おう、頼りにしてるぜ」
「全然頑張る気ないじゃん……もー……私さっき洗濯終わったばっかりなのに。ねぇ、お風呂は沸いてるんだし、後からでもいい?さすがに疲れてるんだけど」
「あぁ?若いやつが何いってんだよ」
働け、とジャブラ。
いや、誰よりも働いているんだが。とアネッタは出かけた言葉を飲み込んで、代わりにじとりと睨んでみたが、彼女がうんと小さい頃からの腐れ縁であるジャブラが今更睨み一つで狼狽える筈もない。その上、背後で「あら、すぐには直らないの?」と鈴を転がすような声がすれば、アネッタはぎくりと肩を震わせた。
「カ、カリファ……」
「このあと入りたかったのだけれど……」
そう言って、困ったように笑むカリファ。
カリファは知っているのだ。他の男たちと比べて、自分が優遇されていることを。だからカリファがしおらしく言えばアネッタは「分かったよお!今からします!」と言うことしかできないし、動かざるを得ないのだ。
そうしてアネッタは休憩も取れずにヒイヒイ言いながら甲板へと出て、海へと潜り修理に励むことになるが、その場に残されたジャブラは「お前も悪い女だな」と笑い、カリファも「あら、ただ私はこのあと入りたかった、と言っただけよ。……まぁでも、お礼のおやつぐらいは用意しておきましょうか」と白々しく笑った。