春日
「え……ッ、な、なぁ、それ本当なのか?本当に俺だけなのか?」
目を大きく見開いて、手渡されたお菓子と××を交互に見る。××ちゃんがみんなにクッキーを配るなか、おれだけがチョコレート?見間違えだとか、都合の良い夢ではなく?……そんなことを言いたそうに視線を向ける彼はソワソワと落ち着かない様子で、なんだか今だけは彼が大きなわんちゃんに見えて仕方が無い。
「本当だよ」
茶化す事も無く告げると、彼は両手を腕に揚げて「よっしゃァ!!」と声をあげて全力で喜んだあと、「勿体なくて食えねえなあ」と笑みを見せた。
難波
「………とか言って、どうせ他の奴にもやってるんだろ」
いいか、俺は騙されねえぞ。そう得意げに言いながら他の皆にも配ったお菓子を見て、沈黙を作る難波。猫背気味に両手で手渡されたものを持ったまま硬直する様子に、てっきり先の言動を後悔しているのかと思ったが……ボボボと火を灯すように赤くなる様子を見るに、色々と感情が追い付いていないらしい。「な、なんで俺だけが違うんだよ」「いや、別に悪いってわけじゃねえけどよ」分かりきっている事を一々饒舌に独り言ちる彼は、分かりやすいツンデレだ。「もしかして、嬉しくないですか?」尋ねると、「そういうわけじゃねえよ」と間髪入れずに返した後、「あの」とか「あー……」とか言葉を濁らせたあと、「これ、サンキューな」と赤いまま照れ臭そうに笑った。
ソンヒ
「……それは、そういう意味だと思ってもいいのか?」
存外嬉しいものだな。彼女の事は一等大切にしていたつもりだが、その想いが伝わっていた。勿論、他とは違うものを貰った事も嬉しいが、自分の想いが届いていた事が何よりも嬉しい。血色の良い頬を撫でたあとのソンヒは機嫌良く笑い、頬に手を添えたまま、親指の腹で彼女の下唇に触れる。「お礼は何がいい?」囁くような問いかけに、心臓が跳ねた。
趙
「……へぇ……、それって俺だけは本命って都合よく考えちゃうけど」
配給のように数枚ずつラッピングされたクッキーが手渡されるなか、「天佑さんはもう一つ」といってチョコレートマフィンを渡された。それも、可愛らしいハートの柄が入ったラッピング袋で、表が黄色で裏が黒のリボン付き。その露骨ともいえる他とは違う一品に、少しだけ期待を込めて尋ねると、彼女は長い睫毛を下に向けた後、赤みを帯びた顔で頷く。此方から見える耳も真っ赤で「この後、春日くんたちと解散したら…………少し一緒に歩かない?」と尋ねたのは、ちょっとした独占欲の表れだったのかもしれない。「じゃあ、また後で」ああ、今日ばかりは今の時間がもどかしい。