可愛いあの子が男になったらしい

一番
「……××ちゃん、だよな」
すらりと背の高い男が一人、気まずい様子で目を逸らしていた。頷く彼は、身長も骨格も、その端整な顔も××とは異なる。しかし其処にある雰囲気も、分が悪いと目を逸らすその癖は彼女のものではないか。見た目や雰囲気が合致せず、咄嗟に両肩を掴んだ一番は混乱していたように思う。「ど、どうしちまったんだよ××ちゃん!」「ま、まさかアンタ本当は男だったのか……?!」「いや、でも、……っ待て、ということはその、つ、ついてんのかァ?!」……がくがくと揺らされ、べたべたと触れられる体。その手や視線が下へと向いた瞬間、いい加減落ち着けとばかりに紗栄子が一番の頭を鞄で殴ってくれたが、色々危なかったかもしれない。「やめなさいよ一番!アンタ何してるか分かってんの?!」「わ、…悪いサッちゃん!」「私に謝るんじゃなくて××にいいなさいよ!」「すみませんでしたァ!」

一番②
「……へぇ、……××ちゃんが男になるとこうなるんだなぁ」
意外にもアッサリとした反応に、息が抜け落ちる。とつぜん男になって、数日。長期休暇中と言う事もあり仕事には支障をきたしていないが、それでもこれまでの交友関係が全て無くなってしまうのではないかと怖かったのだ。「一番、気持ち悪いって思わないの……?」「気持ち悪い?なんでまたそう思ったのか分からねえが……見た目が違うだけで××ちゃんは××ちゃんだろ」まぁ、違和感がないかといったら嘘になるけどよ。そういつもの調子で笑う一番には嘘が見えない。ただ、嘘が見えないだけに真っ直ぐとしたあの眼差しが自分へと向くと、どうにも気恥ずかしく「一番って本当タチの悪いたらしだよね」と言うと、骨格を確かめるように腰へと向いた手がビクリと強張って「ちげえよ、俺は××ちゃんを口説いてんだよ」と拗ねた声が零れ落ちた。

難波
「男になるのも意味がわからねえが、顔が整ってるのが腹立つな」
普通はもっとムサい感じになるもんだろ。よく分からない嫌味を言う難波に「僻み乙」と言うべきか、それとも「誉めてくれてありがとう」と言うべきか。
「××さんほど顔が整っていれば、仕事を紹介できそうですね」と横から茶々をいれるハン・ジュンギに「なんだったらうちの店でボーイやるのも有りね」と言う紗栄子の話に「仕事クビになったらいいかもね」と言ったのは軽口のつもりだった。しかし、隣に座る難波は口をへの字にひん曲げて「あのな、あんまりホイホイ安請け合いするもんじゃねえ」とか「大体、一番じゃあるまいし、ただの素人が出来るわけねえだろ」と機嫌悪く言うので、特に何を言うでもなくジイとその顔を見つめると、彼はバツが悪そうな顔で顔を逸らした。「……悪いかよ、心配性で」うーん、今日も彼はツンデレだ。

ソンヒ
「……ほう、なかなかいい面構えじゃないか」
だったらする事は一つだな?そう続ける彼女は、間違いなくこの変化を楽しんでいる。口端を吊り上げて、サングラスを装着して。立ちあがるソンヒは「××、出かけるぞ」と機嫌よく笑った。
……が、去り際の「××ちゃん、気をつけてねぇ」と言う趙の含みを持たせた言い方が少し気になった。