甘い香りの中で気づく、“やらかした感”。
朝早くに起きたその日。出社時間まで余裕があるからと冷蔵庫にあったブルーベリーをたっぷりの砂糖でジャムにして、ついでにパンを焼いたところで気付いた。
「そういえば私だけ振り返り休日だったなぁ……って」
「……それで、仕事前のわしをわざわざ起こして部屋へと呼んだと?」
「そう!」
いやぁ、カクが隣人で良かった。一人でしっぽり楽しむことも出来たけど、今日は仕事を頑張るために作ったものだ。だから、この料理はきょう仕事の人がいないと完成しない。
どうせ部屋に来る事が多いんだからと二人分買い揃えていたマグカップに、少しの珈琲と、それから牛乳を注いでくるりとかき混ぜる。それからワンプレートに、サラダやスクランブルエッグ、ベーコンにトーストしたパンを乗せて出してやると、いまだ眠たげな頭を揺らすカクが「おお」と鈍く声を漏らした。
「……うまそうじゃのう……全部食ってええんか」
「勿論、そこのブルーベリージャム使ってね。今日作ったから」
「おお」
言いながら、自分も用意したワンプレートの皿を置いて一緒に食べてみる。しかし、いざ出してみると相手の反応が気になってしまい、彼が一口食べるまで手がつけられず。カクがたっぷりのブルーベリージャムを乗せたトーストを頬張ると、ゆっくりと息を吐き出しながら頬を緩めた。
「……ん、うまいのう……ブルーベリーの酸味で目が覚めるわい」
「そう?……あは、よかった~」
「んー……起こされた時にはどうしてくれようかと思ったが……これは役得じゃのう」
「いま怖い事いってなかった?」
まぁ、本人は眠たげながらも満足そうに目を細めていたので、大丈夫だとは思うのだが。
なんかときどき物騒なことを言うんだよなぁ……。自分もパンにジャムをざりざりと塗って頬張ると、外から差し込む光がやけにこの風景を美しく照らして、私は少しの間をおいてゆっくりと息を吐き出し、尋ねた。
「今日もがんばれそう?」
その問いに、カクは目尻に皺を作るようにして笑った。
「おお、これだけ飯を出してもらったんじゃ。頑張らんとな」
「ふふふ、なら良かった。今日は仕事を頑張るための朝ご飯だからね!」
「……ほう、それじゃあ夕飯も期待していいのかのう」
「あ、図々しい~、夜まで私に作らせようって?」
「ブルーノの飯もええが、家ならゆっくりと食べられるじゃろ」
「あははっ、じゃあ頑張って作るよ。何がいいかなぁ……時間あるしローストビーフとか作ってみようかな」
「肉!いいのう、ワシャ肉だいすきじゃ」
「知ってる~、あ、それじゃあパウリーも呼びなよ。どうせ金欠だろうしさ」
「わはは、喜んでお呼ばれされそうじゃのう」
そうして、食事を終えたあと皿洗いを志願する彼を断って玄関へと見送る。これから家を出れば余裕で職場にも迎える筈で、彼は「別に皿洗いくらいできるぞ」と言ってくれたが、彼は仕事で私は休み。何より、皿洗いも嫌いじゃないし、結構好きだ。
「いいよ、別に。それよりも頑張ってきてね」
なので今回は彼の背中を押すにとどめ、彼を見上げる。
すると見上げた先の顔は不思議そうに瞬いて、私も同じように首を傾げた。
「……?どしたの?」
「いや、……わはは。もしもわしらが結婚をしたら、こんな感じなのかと思うてのう」
「へ…………」
「ま、そのためにはこれくらいせんといかんが」
言いながら顎をクイとあげて、頬へと口付ける。それはちょっとした悪戯めいたもので、カクも笑っていた。しかし、その日は何故だか「何してんの」なんて軽く返す事が出来ず、彼の袖を掴んで「い、……ってらっしゃい」を絞り出すことしかできなかった。