【番外編】お菓子を期待したのに!

「サッチさん、トリックオアトリート!」
「はいはい、アネッタちゃんにはぬか漬けね」
「なんで?!」

 養護施設グアンハオは、ハロウィンになると子供たちを引き連れて”ハロウィンのお菓子巡り”をする。
 行先は、毎年ハロウィンやクリスマスなどのイベントがあるたびに、子供たちへお菓子を配ってくれる”白ひげ組”という極道のもとで、私含めた子供たちはそれを楽しみにしているわけだが……まさかぬか床の入った壺を手渡されるとは。
 それも、両手で抱えるほどの大きさだ。壺はつるりとしていて、それにクジラの絵が描かれていて可愛い。でも、ぬか床の入った壺はズッシリと重たいし、何よりせっかく可愛いメイド姿だというのに、世界観がめちゃめちゃになっている。

「……なんでぬか漬け……っていうかぬか床……?」
「いやいや、ちゃあんとハロウィン仕様でぬか漬けも入ってますとも」

 確かに、パカリと蓋を開くとうっすらと表面にニンジンっぽい赤いものが見える。
 とはいえ、子供にはなかなかウケの悪い匂いだ。顔をくちゃりとすると、サッチさんはカラカラと他人事のように笑った。

「その人参はな、冬場に雪の下から収穫されるものなんだよ」
「雪の下……枯れたりしないんですか?」
「ああ、それどころか寒いお陰でギュッと旨味や糖度なんかが強くなって、それも糖度が十二度もあってなぁ」
「糖度十二度……ってイメージつかないなぁ」
「十二度っていうとリンゴだな」
「ええ、すごい!」

 リンゴぐらい甘いニンジンって、なんとも想像がつかない。
 というか、そもそもなんでぬか漬けをハロウィンに?

「それで、ええと……なんでぬか漬け……?」

 尋ねると、ちょうどよく目の前に現れたマルコさんがサッチさんを小突いた。

「ほら、やっぱり若い子にぬか漬けなんて早えんだよい」
「うるせえなぁ、お前らがあんまりにも世話しねえからこんなことになってるんだろうが」
「え?つまり体のいい押し付けってことですか?」

 その言葉に、サッチさんがギクリとした顔を見せる。

「あ、いや、ちがうちがう」
「ちがわねえだろうよい」
「ひどい、サッチさん……私ただのお菓子を期待してたのに……!」
「あーはいはい!ちゃんと普通のお菓子もありますとも!!」

 マルコさん側に身体をよせて、傷ついたって顔を見せるとマルコさんは肩を抱いて「おお、かわいそうにねい」とそれらしいというか、適当なことをいってノってくる。それをサッチさんがいつもよりもくだけた口調で言うと、他で配られているものよりも大きなお菓子の詰め合わせを出して私の方へと押し付けた。

「わ!すっごい大きい!いいんですか?」
「おー、どうぞどうぞ。元からこれも渡そうとしてたしな。まぁ、ぬか漬けはオマケってことで」
「オマケかぁ」

 ずっしりと重たいぬか漬けを、はたして大事に扱えるだろうか。美味しく作れるのだろうか。
 そういえば、小さい頃にお父さんがぬか漬けをどこからか貰ってきて、一緒に手を突っ込んで泥遊びみたいにかき混ぜたことを思い出す。あの時はお父さんが「花嫁道具としてもたせるか」といって、お母さんが「もう嫁入りの事を考えてるの?」と笑っていたけれど、そういえばあのぬか床は一体どこへいったんだろう。
 当然、いま抱き抱えているものは、あの時とは違う。
 けれど、あの時のものを受け継いだような気がして少しだけおなかがこそばゆくなった。

「ふふ、楽しみ」

 ちょうどその頃に私の姿を見つけたカクが不思議そうにして「なんでぬか漬けなんか貰っとるんじゃ」と尋ねていたけれど、まぁ、彼とは帰る場所が同じだ。説明はおいおいということで。

「てい」
「うおっ、やめんか冷たいのう……」

 ヒンヤリと冷たい壺を、カクの頬にぺっとりと当ててみる。カクはそれを鬱陶しそうにしてたけれど、私は笑って壺ではなく大きなお菓子の詰め合わせを持ってもらうと、サッチさんと目を合わせて頬を緩めた。

「……美味しいの出来たら、おれっちにも分けてくれな」
「へへ、じゃあ頑張って美味しいのつくりますね。何を入れたらいいかなぁ」
「わしはナスがいいのう」
「お、じゃあおれはきゅうりがいいよい」
「ぬか漬けってのはなんでも合うからなぁ、大根、キュウリ、白菜……あ、ヤングコーンなんかも美味しいぜ」
「……てことは、超お高いステーキ肉とかいれたら美味しいんじゃ……」
「それ、間違いなく食中毒になるからやめてな。おじさんとの約束」
「はあい」