小腹が空いたといったから

「ただいま」

 ハウスシェアをしている家に、カクとルッチが揃って帰ってきた。アネッタは二人を出迎えたが、小腹が空いたという訴えを聞いて時計をちらりと見る。時刻はお昼前の十一時。これから昼食で出そうと思っていた焼きそばを作り始めたって、もう少し時間がかかってしまう。さてどうしたものか。アネッタは彼らが手洗いをしている合間に冷蔵庫を開けると、そこに並んだボトルを見て「あぁ、これがあった」と笑った。

「これからお昼作るから、これでも食べて待っててよ」
「おお、マスカットか!随分と高級なデザートを出してきたのう」
「……、……珍しいな」
「ふふ…スパンダムさんからお歳暮でたくさん送られてきたんだー」

 そうして二人に出したのは、つるりと光る高級シャインマスカットであった。スーパーなんかで一房千五百円で売られているそれは普段なら手が出せないが、これらは全て直属の上司にあたるスパンダムから送られてきたものだ。わざわざ部下相手になぜお歳暮をとは思ったが、不器用な彼らしい日頃のお礼と考えるべきか、これを餌に働けと言っているのかと疑うべきか。
 まぁなんにせよ、桐箱に入っていたシャインマスカットたちだ。きっとスーパーで並んでいるものよりもお高いものに違いない。二人はそれぞれダイニングテーブルに向って腰を落ち着けると張りのあるシャインマスカットを取って、口の中へと頬張った。

「……んん…?なんじゃあ、シュワシュワするのう!」
「………」

 驚きに声を上げるカクと、僅かに目を見開くだけのルッチ。なんともまぁ対照的な反応だが、兎に角驚いたようなので良かった。アネッタはネタバラシだと言うように「それはねぇ、炭酸漬けマスカットだよ」と言うと、二人は彼女の顔を見た後、もう一つ無言で手に取って口の中へと放り込んだ。

 さて、こちらの材料は強炭酸水と皮の薄い葡萄をお好きなだけ。作り方も非常に簡単で、ジップロックや蓋つきのボトルや水筒など、兎に角炭酸が抜けないようしっかりと閉じることの出来るものに表面を洗って水気を落とした葡萄を入れ、その上から葡萄が浸るまで強炭酸水を注いで蓋を締め、あとは冷蔵庫に入れて半日から一日ほど放置をするだけ。すると葡萄に炭酸が移り、食べた際にシュワシュワするのだが、どうやらルッチは気に入ったらしい。

 珍しく「………美味いな」と感想を述べると皿へと手を伸ばし、最後の一つが無くなるとお代わりはないのか――という顔を向けていた。

「まだあるけど、お昼ご飯もちゃんと食べてよね」
「あぁ」
「アネッタ!ワシャ次は食べ比べがしたい!」
「あー、それもいいかもねぇ」

 言いながら冷蔵庫を開いて、仕込んでおいたボトルを出す。一つ手に取って口へと運ぶと、口の中で弾けたマスカットの果汁がシュワシュワと口の中を刺激する。強炭酸だと少しばかり舌がぴりぴりするような。それでも炭酸を乗せたフレッシュな果汁は新鮮で、まさに食べるブドウジュースのようだった。アネッタはひとり笑いながら催促するふたりのために、マスカットを皿の上へと移したが、結局は食べすぎてしまい、あとでこっそりとスーパーで買い足したのは三人だけの秘密にしておこうかと思う。