宝探しはとつぜんに

 希少種だからと観察保護対象に指定された私には、あまり自由が無い。
 世界政府に保護を受けて以降、十八年以上尽くしてきたのに未だ足枷があるし、一人で拠点地から出る事は許されていないし。ひとり部屋の中でソファに座っても退屈で、ブーツの上から嵌めた足枷が虚しく揺れる。

「これなら、私も任務についていきたかったなぁ……」

 エニエスロビーに滞在している間は、ひとりで他所の島に遊びに行く事は出来ない。それは観察保護対象に指定された私が逃走、あるいは拉致されることを恐れての制限だが──それにしたってつまらない。仕事で外に出ていた方がまだ自由がある。
 前に行った島は良かったな。近隣の島と比べて規模も大きくて、商人の島と言われる程度には店が多く立ち並んでいた。それに比べてエニエスロビーにある建物は、司法の塔に裁判所、居住区だけで若者には面白みが無さすぎる。

「うーん……相変わらず良い天気……」

 気晴らしに外へ出るも、エニエスロビーは毎日変わらず青天が続く不夜城だ。窓の無い狭間から差し込む光は温かいものの、いつも通りすぎて面白みがない。そのまま目的もなく、ただウロウロと彷徨うと、怪訝な声が引き留めた。

「オイ、こんなところで何をしてやがる」
「え、あ、お、お休みなので歩いてました……?」

 スパンダム司令長官だ。
 どこか不機嫌そうな顔が息を吐く。

「チッ、そういや休みだったな」

 私はその仕草を見つめ、尋ねた。

「何かあったんですか?」
「あー……いや、ほらこの季節だろ。色々とおれのツテ欲しさに贈り物が届いてよ」
「ああ、そういえば舞踏会の日程が近いですもんねぇ」

 天竜人や貴族が参加する舞踏会を前になると、なんとしてでもコネを作ろうとする貴族たちから、顔の広いスパンダム司令長官のもとへ贈り物が頻繁に届く。
 中身の価値よりも下心の方がよほど重そうなそれらは、年々数を増す一方だ。そういえば近くの倉庫にも、木箱が山のように運び込まれていたっけ。

「てことは検品が必要ってことですよね、なにか問題でもあったんですか?」
「それが、急遽贈り物にある印章が必要になってよ」

 成程、あのたくさんある木箱から宝探しをするわけだ。
 長官が嫌な顔をするのも頷ける。

「ったく、こんな時に使える奴らが出払ってんだよなぁ……」

 言葉の節々に棘がある。まぁ、急遽と言っているし急を要する事なのだろう。

「あー……なるほど。じゃあ手伝いましょうか?」

 尋ねると、長官は驚いた様子で尋ね返した。

「いいのか?お前休みだろ」
「まぁ、休みですけど……あ、じゃあ不要判定された贈り物から何か貰ってもいいですか?」
「……物によっちゃやれねぇぞ、酒がいいのか?」
「え、お菓子……」
「お前、イイヤツだなぁ……」
「?」

 そうして、私は急遽宝探しを始めたわけだが、ひとり部屋に籠るよりもずっと面白いイベントだった。
 複数ある木箱に詰められた、百五十個の贈り物。それをまずはサイズ別に仕分けて、小さな箱から送り主と中身を紙に書いていく。これは後に長官に提出して、不要なものと必要なものを仕分ける際に使用したり、あとは長官自身が記憶して対話に使うわけだが──小さな箱には宝飾品が多い。

「これを売るだけで、数か月分のお給料になるんじゃ……」

 薄紫の宝石を大胆にあしらったブローチに、どの服装にも合うよう無色のダイヤモンドで作られたカフスボタン。宝飾品のうちいくつかは長官の髪色に寄せているように思えたが、まさか指輪まで贈られていることには驚いた。
 案外、スパンダム司令長官はおモテになったりするんだろうか。
 それぞれ贈り主と贈り物を記録して、小さな箱にあった印章を見つけると、丁度そのタイミングで入ってきた長官に掲げた。

「スパンダム長官、ありましたよう」
「おお、やるじゃねえか!こいつがあればなんとか対応できる」
「へへーそれならよかったです!」

 ……が、未だ未開封のものがたくさん残っている。
 先に選別したお陰で取っ散らかっていないとはいえ、これでは消化不良だ。それに、さっきみたいなアッと驚くような贈り物がまだあるかもしれない。宝探しが好きな私からすればここで終える方がつまらない。未だ未開封のものたちを指さすと、長官は怪訝そうな顔で頭を掻いた。

「長官、この開封と検品作業は最後までやってもいいですか?」
「そりゃまぁ別にかまわねぇが、あとは急ぎじゃねえから後日にして他の奴に任せてもいいぞ」
「いやぁ……なんか開封作業が楽しくって」
「おれからすりゃあ使いやすいが、変わってんなぁ……」
「そうですかねぇ……あ、高そうなお酒!」

 小難しい書類作業だとか、任務に向けた難しい戦略会議よりも遥かに楽しい作業だ。遠い異国で生まれた地酒に、思わず目が奪われるような彫刻を施した銀時計。自分が要望していた菓子類は日持ちしない関係で見当たらなかったが、それでも十分に満足するほどの楽しさがある。
 窓辺から聞こえる小鳥たちのさえずりが聞こえる。印章を手にした後も部屋を出ない長官は、ただ私が機嫌よく鼻歌を口ずさみながら宝探しする姿を見ていた。しかし、印章自体はすでに見つけて、彼の手にある。長官は息を吐いて、仕分け済のものからいくつかの箱を取ったあと、私の前に落とした。

「え?」

 箱が二つ。
 指輪と、あの薄紫の宝石をあしらったブローチだ。

「菓子は無いみたいだからな、これで我慢しとけ」
「え、あ、え??」
「いらねぇ宝石とはいえ、貰ったモンを売ることもできねぇからな」

 いらねえってことはないでしょうに。──と一般人の私は思うわけだが、去り際の顔を見るに、本当にただ押し付けられただけのようだ。……もしかして、そんなに物欲しそうな顔をしてたかな。
 箱から飛び出したブローチを手に取って、足元まで伸びる白い光の筋に翳してみる。白い光をたっぷりと吸い込んだその宝石は、誇るように煌めく。
 ただの宝探しで云百ベリーの報酬なんて、随分と割の良い仕事だ。   
私は思わずひとりで笑った。