飲み会は突然終わりを告げる(🐺)

「あのさぁ、失恋したって話を聞いた後で申し訳ないんだけど、私たぶん結婚するわ。」

 フラれたって名目で始まった飲み会の最中、おれの話を遮って告げられた言葉に、があんと鈍器で頭をなぐられたような衝撃を受けたおれは、居ても立っても居らずにテーブルから身を乗り出して問いかけた。

「はぁぁ?!…だ、誰とだよ!」
「世界政府在籍の○○って人。この間仕事終わりに呼び出されてプロポーズされたのよ」
「…っ…う、受けンのか…?!」
「まぁ、アンタと同じで私も30超えてるからね、結婚するにはいい頃でしょ。…それに、私はしがない給仕係だし、金持ちからのプロポーズは受けた方が良くない?」

 向かいに座る飲み仲間の女はやけに冷静だった。度数の高い酒が入ったグラスをゆらりと揺らしては、特に照れた表情も見せずに淡々と、いや、やけに皮肉めいた口ぶりで返すと視線を此方に向けた。

「…ま、そんなわけでアンタと飲むのも最後かね。」

 あっさりと告げられた別れの言葉。確かに給仕係とサイファーポールじゃ権威も能力も、価値すらも異なるかもしれねぇが、それでもおれたちは飲み仲間として一緒に飲んできたってのに、何故そう簡単に別れを告げられるのか。というか、だ。じゃあ、おれが今までコイツにフラれたって名目で飲みに誘って、少しずつ、少しずつ距離を詰めてきた日々は何だったんだよ。そうこう考えているうちにおれは無性に腹が立ってきて、手に持ったグラスをがあんと音を立ててテーブルに置くと、表情も変えることなく告げる女を見て声を荒げた。

「じゃあおれと付き合っちまえばいいだ狼牙!」

 そうしたらお前は金持ちと付き合えてハッピー、おれもハッピーでいいじゃねえか!

 そんな俺の一世一代の告白を受けた女は突然の出来事にも関わらず表情一つ変えなかったが、「……じゃあプロポーズは断らないとね」なんていつも以上に穏やかに言うものだから、不覚にもおれの心臓はがっちりと掴まれてしまったのだった。