「クザ……ッン…さん……」
どうしてですか。
なぜあなたが黒ひげの傍にいるのですか。
腹積もりしていた言葉は沢山あれど、足元から凍り、根を張るように自由を奪われる感覚に吐息だけが落ちる。もう右足も、左足も自由が利かない。パキパキと渇いた音を立て凍結が広がりゆくなか、霜を踏み締めて距離を縮める男を見上げると、感情の読み取れぬ三白眼が此方を見下ろして、手のひらが私の頬を撫でる。
「……イイ女になったと思ったら、まさか此処で逢うなんて運が悪いなアネッタちゃん」
二年ぶりに会ったクザンさんの手の平は、死人のように冷たかった。頬を撫で、耳を擽り、項を摩るその一貫性のない動きは確実に熱を奪う。
そうして、サングラスの奥に潜む瞳が弧を描いたと気付いた頃には、私の吐息は白く氷つき、蝕む氷が酸素と一緒に、私の全てを飲み込んだ。
「…、……」
真下に落ちる陽の光を受けて氷の彫刻がきらきらと輝く。
世界政府直下のサイファーポールと海軍を抜けた男。関係性を思うと、この彫刻は放置なり壊す事が安牌であると理解はしているが、どうにも気乗りしないのは関係性の他に何かしらの情があるからで。最後に氷彫刻を撫でたおれは、その小柄な氷彫刻を小脇に抱えると少し先にあるひと際大きなコンテナの中へとしまって、ゆっくりと扉を締めた。
「大事なものはしまっておかないと……そうだろ、アネッタちゃん」
そうしてその場を後にしたおれは、間もなく此処にやってくるであろう黒ひげに向けてあいさつ代わりに緩く手を挙げた。